慰安婦問題 韓国が方針/決定的な対立 回避したい
河北新報社

 日韓両国が今こそ、北朝鮮の脅威に足並みをそろえて対処しなければならない、というのにである。旧日本軍の従軍慰安婦問題を蒸し返し、日本の不信感を増幅させる韓国政府の真意を測りかねる。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は、慰安婦問題の解決を確認した2015年12月の日韓政府間合意を巡る新方針を発表した。

 日本政府が合意に基づき、元慰安婦の支援のために拠出した10億円について韓国の政府予算で肩代わりし、凍結した拠出金の取り扱いは日韓両国で今後協議するという。

 「慰安婦被害者の意思を反映していない日韓合意は真の問題解決にならない」。朴槿恵(パククネ)前政権に責任を押し付けるような一方的な理由で、合意を事実上「白紙化」しようとする試みは納得できない。

 韓国政府は10億円の拠出金を財源にして、「和解・癒やし財団」を設立した。財団を通じて、合意時に存命していた7割超の元慰安婦が支給金を受け取ったとされる。

 日本が政府予算の中から拠出したのは、韓国政府の要請があったからにほかならない。日本の国家責任を示す意味も込められていただろう。

 その合意の柱を今になってひっくり返すのは不誠実と言わざるを得ない。「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意の否定につながる。日本政府は、文大統領が求めた謝罪など追加的措置にも一切応じないことを表明した。

 拠出金について、文大統領は「慰安婦問題の解決に向けて良い目的で使えるなら望ましい」と述べた。返還のリスクを考慮したのだろうが、都合が良すぎるのではないか。

 文大統領が、合意に反発する元慰安婦支援団体や支持層に配慮したのは明らかだ。韓国政府は国内事情で「ゴールポスト」を平気で動かす、との批判は避けられない。

 その一方で合意の廃棄や再交渉を求めなかったことは、ある意味「玉虫色」である。文大統領の現実的な判断が働いたことは間違いない。

 国と国との約束である。政権が代わったとしても、責任を持って合意を履行するのは普遍的な国際ルール。それを破れば、国際社会の信用を失うことになるからだ。

 ましてや、今回の合意は日本政府が、韓国政府に押し付けたものではない。両国がそれぞれの不利益に目をつぶってまでも、関係改善による国益を優先させた妥協の産物である。国際社会が歓迎した「知恵」を尊重してほしい。

 日本政府は合意の誠実な履行を求めるのは当然だが、決定的な対立に陥る事態は回避しなければならない。分断を狙う北朝鮮を利するだけだ。

 歴史問題という感情的に根深いトゲを抜き去ることは、容易でないことが改めて浮き彫りになった。外交だけでの決着の限界が見えた、と言えまいか。幅広いアプローチで解決の道を探るさらなる努力が双方に求められよう。

http://www.kahoku.co.jp/editorial/20180112_01.html