※続きです

■出生率低下は「不平等」の産物か

国会立法調査処の立法調査官は今年3月、過去の対策を批判しながらこう語った。
「少子化を迎えた韓国と日本の共通点は、格差社会という点に集約できる。
若い世代は、自分の考えに基づいて結婚しないわけではない。
結婚・出産の経済的コストが自分に賄える水準を超えているという、合理的な判断をしているのだ」

結婚を奨励し、初婚年齢を早めれば出生数が増える――。
過去の対策が土台としたこの仮説も、否定されつつある。
低出産・高齢社会委員会で今年3月、専門家が次のように発言した。

「晩婚化・非婚化が問題なのではない。スウェーデンの平均初産年齢は31歳で韓国とほぼ同じだが、出生率は1.98(13年)で韓国を大きく上回っている」
「韓国の出生率が低いのは、持てる者だけが恵まれる不平等の深刻化、そして国民全体の『生活の質』が悪化したことだ」

■結婚・出産を諦めた若者たち

韓国で「3放世代」が流行語になったのは、11年頃から。
これは「恋愛、結婚、出産の3つを諦めた=放棄した青年世代」を意味する。
背景にあるのは、青年層の就職難と家庭を持つ経済的コストの増大だ。
のちに「人間関係、住宅」を加えた「5放世代」という言葉も生まれた。

猛烈な受験勉強を経て進学しても、ソウルの一流大学でなければ満足な就職は望めない。
やっと会社に入れても雇用は不安定で、長時間労働が常態化している。
住宅価格は経済成長を上回る勢いで高騰し、マイホームはますます手が届かなくなった。
こうして家庭を持つことを諦めた青年層には、出産奨励金も行き渡りようがない。

■女性と青年の「生活の質」が究極の答え

労働問題に詳しいウン・スミ大統領府女性家族秘書官は、昨年12月の懇談会で「少子化は単独の問題ではなく、私たちの社会が抱えるさまざまな問題が現れた病の症状だ」と述べた。
さらに「出生率と出生数を当面の目標とするのでなく、市民、特に女性と青年の生き方を変える人間中心の政策にパラダイム転換する」と宣言した。

韓国社会の一部でも、女性の社会進出や高学歴化が少子化の原因だという意見は根強い。
だが世界経済フォーラムによれば韓国と日本はともに、OECD加盟29カ国中で女性の社会進出が難しいランキングのワースト1と2に並んでいる。
これは、むしろ逆の相関を疑うほうが合理的だろう。

儒教に基づく韓国の伝統的な家族観は、父系の血縁を特に尊重する。
それと相反する未婚の母は、執拗な偏見と差別の対象だ。
韓国人の価値観は現在も急速に先進国化しつつあるが、こうした因習は一部でまだ根強い。
女性や家族問題を扱う中央省庁、女性家族部は、前政権の第3次計画を見直すにあたってこうした点を批判している。

入籍していないカップルが、出産インセンティブの対象から排除されていることなどがそうだ。
同時に未婚の母への差別にも言及し、その改善を求めた。

■「最後のチャンス」に賭ける具体策はこれから

韓国の大学進学率は、09年から女性が男性を上回っている。
16年は女性74.6%、男性67.6%だ。
同年の女性就業率は66.4%で日本とほぼ並んでいる。

文政権はさらに女性の労働環境を幅広く改善し、「女性の人生と選択を尊重する」政策を追求すると宣言。
育児を母親1人に負担させない「平等育児」も提唱した。

日本のあとを追って生産年齢人口が減少へ向かう韓国は、女性の労働力活用も死活問題だ。
女性と青年の「生活の質」を変えるという文政権の少子化対策。
だが今のところ提案されている具体策は、既視感が強い。

※続きます