中国の習近平政権は今、国民全体に対する監視システムの構築を行っている。

 例えば、全国の都市部では2千万台以上の監視カメラが設置され、24時間、街中の人々の動きを監視している。
そして、監視カメラの中には、特殊な人工知能(AI)が内蔵されている。

 カメラ自体は歩行者や自動車を運転中のドライバーの顔をズームアップで捉えるだけでなく、
車の色や車種、歩行者の年齢、性別、衣服の色といった詳細を判別することもできる。
カメラに内蔵しているAIが衛星利用測位システム(GPS)や顔認証システムを通して当局のまとめた
「犯罪者データベース」とつながっているために、街の中である人物を捉えた際、
当局の「犯罪者データベース」と一致すれば、GPSを使って居場所を即座に探し出し、
警察官が直ちに駆けつけてくる仕組みとなっている。

 当の警察官たちにも特殊な眼鏡が配備されている。それも顔認定機能を搭載し、
当局の「犯罪者データベース」とつながっているから、警察官がこの眼鏡をかけていると、人混みで映る多くの顔から、
「犯罪者データベース」に登録された人の顔をわずか0・1秒で割り出すことができるのだ。

 このような精密なシステムの監視対象となるのは、もちろん一般的な意味での犯罪者だけではない。
中国共産党や政府に対して反抗する人、反政府的デモや街頭での抗議活動を行う人は皆、
このシステムによって監視され、身元が簡単に割り出されてしまうのである。

 しかも、中央テレビ局はわざとこのシステムのすごさをアピールする番組を全国向けに流している。
そうすることによって、「自分がどこへ行っても常に監視されている」という意識を全国民に植え付け、
国民の誰もが公の場での抗議活動などを躊躇(ちゅうちょ)しなければならないようにしておくのである。

 ネットは当然、中国政府が重点的に監視する領域である。
ネットユーザーが自分の端末機器から発信する微博(中国版ツイッター)が常に監視されているのはもちろんのことだが、
実は日本でも話題になっている中国の消費者用電子決済システムも政府の監視下にある。
政府はその気になれば、個人の消費行動までを細かくチェックすることができるのだ。

中国政府はさらに、
国民個人所持の携帯電話やスマホなどの端末通信機器に
政府開発の監視用ソフトのダウンロードを強制するプロジェクトを進めていく。
監視用ソフトがダウンロードされると、個人所持の携帯やスマホから発信したすべての情報と、
それが受け取ったすべての情報が政府の監視システムに筒抜けになる。

 中国の場合、携帯やスマホの購入・所持は実名制であるから、
誰かが自分の携帯やスマホから政府批判のメッセージでも発信していれば、
発信した本人の身元が直ちに割り出される。
通信機器を使っての政治批判は、これで完全に封じ込められることになるのである。

 現在、中国政府はまず、
重点的な監視対象となっているウイグル人たちにこの監視ソフトのダウンロードを強要し始めているが、
いずれ全国民に広げていくであろう。

 このようにして今後の中国国民は、町を歩いていても、ネットで友人とおしゃべりしていても、
電子マネーで支払いをしていても、自分の携帯やスマホからメッセージを配信していても、
常に政府によって監視されているのである。もはや人権とか自由とかうんぬんするところではない。
国民全員は24時間、常に政府に監視されているという恐怖感と憂鬱の中で生きていくしかない。

 それはすなわち、習政権が構築しようとしている「新時代中国」の理想的姿なのであろう。

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産経ニュース
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