「あの事件によって社会の不安と恐怖が刺激された。人は不安と恐怖をもつと集団でまとまりたくなるのです。
集団でまとまるとみんなと同じ動きをしたくなる。
そのためには、同じ動きをしないものは排除していく必要があり、それには強いリーダーが欲しくなる。
リーダーは自分への支持を集めるため、共通の敵を探したくなる」

 これは、01年の同時多発テロのときの米ブッシュ政権にあてはまるが、同じことが日本でも始まっていたという。

「だから今は、安倍的な政治家が一番いいんでしょうね」

 社会にさまざまな影響を与えたオウム真理教。平成という時代を象徴する事件だが、今後、第二のオウムが現れる可能性はあるのだろうか。
宗教学者の山折哲雄さんは「日本人の心の問題を議論し、解決策を出さなければ、同じ事件は起きる」という。
ジャーナリストの魚住昭さんは次のように分析する。

「麻原氏の教義は、仏教、キリスト教、神道などが混合した習合的なものでした。これにユダヤ民族による世界征服という荒唐無稽な陰謀論と、
自分たちは神に選ばれた民、という選民意識が加わった。それがオウムを武装化に駆り立てた。この陰謀論や選民意識は、形をかえていまも存在します」

 例えば、ヘイトスピーチ。最近、ありもしない陰謀論をうたい、攻撃的な発言をする集団が目立つ。

「こうした、ねじ曲がったナショナリズムは存在するし、それが暴力的な手段を取ることはいくらでもあり得ると思っています。教団の思想を分析し、
事件全体を解明すべきだった。なのに、死刑執行ですべては闇のままです」

 大澤さんもヘイトスピーチの根底に、自分の不遇を責任転嫁するオウムと同じものが流れているとみる。

「今の若い世代が生きる意味や目的を見つけたというわけではない。つまり、根本的な日本の病理が解決したということではない。
病気が慢性的になると、自分が病気であることに気づかないことがある。自覚なき虚無感です」

 いまの日本は東京五輪くらいしか目標がない、と大澤さんは指摘する。目標を失ったとき、人びとは救済を求め、同じような事件が起きる可能性はある。

 闇に葬り去られた“オウム”は、また現れるのだ。(本誌・上田耕司、岩下明日香、吉崎洋夫、永井貴子) (おわり)