(前略:自営業不況が「経営者による強盗」という悲劇的な現実を生んだ事例)
 文大統領が白頭山から戻ってきた日も、韓国経済にとって憂うつなニュースが相次いだ。経済協力開発機構(OECD)は韓国の今年の成長率見通しを0.3%ポイントも下げた。7−9月期の企業経営者の借金は16%も急増、ソウルの住宅価格は1週間でまた0.26%上昇した。国民の50%が「文在寅政権になって経済状況がさらに悪くなった」と回答したとの調査結果もある。このすべてが、文大統領が「平壌宣言」を手みやげに帰国したその日に報道された。

 2泊3日にわたり北朝鮮・平壌を訪れた文大統領は、まるで華やかなショーの舞台に立った主演俳優のようだった。全世界が見守る中で、文大統領は冷戦に立ち向かう主人公役を見事にやり遂げた。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は善良な平和主義者というイメージを演出して足並みをそろえた。見どころ満点で、演出がよく練られたイベントが休む間もなく繰り広げられた。文大統領は大いに励まされたようだ。その勢いは米ニューヨークの国連総会の舞台にまで続いた。非核化の成果をめぐる議論はあるが、文大統領の「平和ツアー」興行は大成功だった。

 ニューヨークから戻った文大統領の気持ちは、南北和解への期待感でふくらんでいたことだろう。ところが、文大統領を迎えたのは暗い経済の現実だった。変わったことは何もなかった。南北関係で追い風が吹いても、経済で吹いている逆風に変わりはない。庶民経済は相変わらず凍り付き、雇用は依然として減っている。経済成長には急ブレーキがかかった。四方八方どこを見ても悪材料だらけなのに、危機脱出の突破口は見えてこない。経済のことを考えると文大統領ももどかしこと極まりないだろう。

 まもなく文大統領に対して、マイナスを記録した雇用指標が突きつけられる見通しだ。9月の雇用が史上初の減少を記録するのはほぼ確実だという。予算数十兆ウォン(数兆円)をばらまいたのに、雇用が増えるどころか減ってしまうという大惨事が起こっている。「マイナス雇用」は政府の経済運用に対する死刑宣告も同然だ。産業生産も、投資・消費のようなマクロ指標も一斉に激しく落ち込んでいる。不動産さえ政権基盤を揺るがす時限爆弾となっている。

 平壌会談後、文大統領の支持率が急反騰すると与党・共に民主党関係者の間から歓声が上がった。経済の失敗で苦戦している政権にとっては「恵みの雨」だったはずだ。与党では経済も平和アジェンダ(取り組み)で突破しようという下心を隠さずにいる。共に民主党事務総長は「平和は経済だ」と言った。まるで言葉遊びだ。「所得主導」で経済を半殺しにしたかと思ったら、今度は南北問題で帳消しにしようとしている。

 平和のない経済は成り立たない。そうとは言え、平和だけで経済を活性化させることもできない。南北経済協力を軌道に乗せるには、さまざまな厳しい条件が整っていなければならない。国際社会の賛同なしに、我々だけで行えることでもない。一方、韓国人の目の前にある経済の現実は、すぐにでも息絶えてしまいそうなほどだ。いつやって来るかも分からない北朝鮮特需を待つには、あまりにも危険で時間がない。経済を担う当事者が経済を生かす政策を取らず、南北という切り札で空を切っている。そのようにして経済を台無しておきながら、「20年執権」をうんぬんする。そのごう慢さにはあきれるばかりだ。

 文大統領は平壌滞在中、人当たりが良く包容力のある姿を見せた。平壌市民に近づいて手を取り、マスゲーム(集団体操)会場で群衆に向かって絶賛の献辞を贈った。物議を醸しながらもそれを押し切って、北朝鮮の体制宣伝物である工場も訪問した。テレビ画面に映った文大統領は終始温かく、オープンな姿勢だった。それは韓半島(朝鮮半島)の平和に対する文大統領の意志表示だったのだろう。南北関係に役立つなら何でもするという覚悟だったはずだ。

 だが、なぜ経済ではそうしないのだろうか。平壌では心を開いていた文大統領が、経済についてはなぜあれほどまでに偏狭で意思疎通がないのか、人々は困惑している。なぜ平壌でしたように産業現場を訪れ、企業に近づくことができないのか。大企業に寄り添い、自営業者の声に耳を傾けようと思わないのか。「国の経済についても、北朝鮮に対してやっているくらいのことをしてほしい」というのは行き過ぎた注文ではないだろう。

朴正薫(パク・ジョンフン)論説室長
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ソース:朝鮮日報/朝鮮日報日本語版【コラム】南北政治ショーでは帳消しにできない文大統領の経済失政
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/09/28/2018092801789.html