「お前ら、生きて帰れると思うなよ」

 オレはごくりとつばを飲み込んだ。

 小便がちびりそうなほど縮み上がっているオレたちは、じっと俯いたまま誰もが押し黙っている。

「お前らの命は、今日からオレたちが預かった。ぶっ殺してやるから覚悟しとけよ。オイ」

そう言いながら軍人がゆっくりと近づいてきた。そしてオレの斜め前の学生らしい男の襟をいきなりひっつかんだ。

そして襟首に鼻をくっつけて、くんくんと臭いをかいだ。

「……お前ら、社会の臭いがするなあ……あ?」

 軍人はゆっくりと言った。学生の青い坊主頭がぶるぶると震えていた。

「ここは、社会の臭いは禁止されているんだ。これからお前らの社会の臭いを消す」

兵役本より
http://blog.livedoor.jp/abechan_matome/archives/42984486.html