「在日コリアンらの排斥」を訴えるブログの呼び掛けに応じ、多数の読者が2017年、各地の弁護士を対象に計約13万件の懲戒請求を出した問題で、実際に請求書を出した女性(50歳代、首都圏在住)が毎日新聞の取材に応じた。女性は「ブログに不安感と恐怖感をあおられた。洗脳状態だった」などと主張し、「現在は請求したことを後悔しており、謝罪文を送付して一部の弁護士とは和解した」と話した。【後藤由耶/写真映像報道センター】
 女性があおられたとするのは「余命三年時事日記」と題された匿名の筆者によるブログ。「南北朝鮮人は日本の癌(がん)」などとしたうえで、読者に(1)「在日」と見なした人物を「不法残留者」として入国管理局に通報すること(2)「反日」などと見なした人を外患誘致罪などで検察に告発すること(3)朝鮮学校への補助金停止に反対する弁護士会長声明に賛同することは「確信的犯罪行為」などと理由を付けて、賛同した弁護士らの懲戒請求をすること−−など具体的な行動を促してきた。

 今回、取材に応じた女性は落ち着いた語り口で、丁寧に言葉を選びながら記者の質問に答えた。請求した相手や提出件数は正確に覚えていないが、請求した人数は「だいたい170人くらい」とし、「(ブログの書き手に)言われるがままにやっていた」と振り返った。請求された弁護士らが逆に、業務妨害などとして損害賠償請求する動きが報じられ、初めて「恐怖を感じ、まずいことをしたと気づいた」と言う。

 女性がこのブログと出合ったのは15年、あるお笑い芸人のネタが「反日的だ」とするネット上の書き込みを見たのがきっかけだった。そこからネットサーフィンするうちにたどり着いた。過激な文言が並ぶ中でも、とりわけ「日本が韓国・中国と紛争状態になったら在日コリアンらと実質ゲリラ戦の状況となる」の記述に危機感をあおられたという。女性はブログからの「指示」を楽しみに待つようになり、「日本を守るために」と指示を実行していく。ブログ運営者の活動費にしてほしいと現金を寄付したこともあった。

 弁護士への懲戒請求は、所属する弁護士会宛てに必要書類を送れば誰でもできる。弁護士法に違反するなど「品位を失うべき非行」があると認定された場合、弁護士は業務停止や除名などの懲戒処分を受ける。

 女性は大量の懲戒請求について「負担感は全然なかった」と振り返る。ブログのコメント欄に自身の住所・氏名を書き込み意思を伝えると、昨年5月と10月にそれぞれ約200枚の告発状と懲戒請求書が送られてきた。対象者名や請求理由は記載済み。女性は自分の氏名と住所を書き込んで押印、まとめて東京都板橋区にある指定場所へ郵送するだけだった。ネット動画を見ながら作業し、半日もかからずに書き終えたという。

 事の重大さに気付き、このブログを読むことをやめた今は「対立をあおって戦わせようと仕向けるカルト性が高い危険なブログだった」「信者になっていた」と感じている。「朝鮮学校への補助金支出は誤り」という考え自体に変わりはないが、懲戒請求という「手段が間違っていた」と振り返る。

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ソース
毎日新聞2018年10月23日 16時45分(最終更新 10月23日 16時57分)
http://mainichi.jp/articles/20181023/k00/00e/040/296000c