<韓国では、海外で就職する人々が3年で3倍になった。国別では日本が最も多い。日本就職を後押しする官民組織と、人材を求める日本企業の事情とは...>

韓国就職情報サイトのインクルートが分析した韓国産業人力公団の統計によると、2017年に海外就職を希望した求職者2万2997人のうち、実際に就職した人は5118人だった。2014年は1679人で、3年で3倍以上の増加となった。国別で見ると日本が1427人で最も多く、2番目は米国の1079人で、シンガポールの505人などが続いている(聯合ニュース)。

人材を求める日本企業と日本就職を目指す若者たち

韓国貿易協会と韓国コンテンツ振興院が、2018年10月15日、ソウルのCOEX総合展示場でITとコンテンツ分野を中心とする日本企業の採用博覧会を開催した。参加したIT関連企業は13社で、合わせて105人の採用を予定しており、コンテンツ関連の9社も20人を採用する計画だ。同年8月に釜山市庁で日本合同就職博覧会が開催された際には、参加企業50社に対して800人の求職者が集まった。

日本企業が注目を浴びているのは韓国の就職難だけではない。学歴を重視する韓国で名門大学への進学に失敗した人が良い就職先を得ることは難しく、日本の方がより良い企業に就職できるチャンスがある。人生をリセットする機会になると留学生支援ネットワークの久保田事務局長は分析する。実際に大学で肌の美容を専攻した若者が、貿易協会が主催する情報処理教育課程で資格を得て、日本のIT企業に就職した例もある。

韓国企業は採用に際して学歴や資格などのスペックを重視する。ある企業が社員の退職に伴って人材を採用した直後に、より高いスペックを持つ人が応募したため、先に採用した人を試用期間中に解雇して、あとから応募した人を採用した例がある。

一方の日本企業は、新卒者のスペックは重視せず、学閥より長期的な潜在力を見る。国籍などによる差別はなく、新卒の外国人にも終身雇用の機会を与えるなど、日本人と待遇に違いはない。

2017年に日本で就職した韓国人の平均年俸は280万円相当(約2786万ウォン)で、韓国大手企業の大卒初任給の平均3325万ウォンより低いが、中小企業の2523万ウォンを上回る。名門ではない大学を卒業した新卒者は日本の方が良い待遇を得られる可能性が大きいのだ。

韓国人を採用した日本企業の評価も良い方だ。新卒の韓国人は他国の出身者と比べて日本語力が高く、ビジネスマナーもある。また、日本人より進取的で外国語能力に長けている若者が多く、海外営業などに優れているという(中央日報)。

官民あげて日本就職に取り組む

日本就職を後押しするため、韓国貿易協会は光州市の全南(チョンナム)大学などと共同で、情報通信技術と日本語を集中的に教育する「日本IT就職課程」を開設した。

また、韓国南東部の慶尚南道も独自の制度を発足させている。道内の大学を卒業し、IT、観光、貿易流通業分野のいずれかの資格を持つ道内居住者が対象で、書類選考と面接を通して語学学校の学費などを支援する計画だ。日本IT就職課程を新設した民間の専門学校もある。

海外就職を求める若者が、韓国産業人材公団が指定する海外就職斡旋機関を利用すると、斡旋企業に200万ウォンの手数料が支払われ、富裕層ではない若者が海外で就労する際には400万ウォンから800万ウォンの支援金が支給される。支援金は日本に限らないが、日本への渡航と転居に十分な額である。

官民あげて日本就職に取り組む韓国だが、人材流出の懸念もある。一度、海外に出た韓国人は母国に戻らない傾向があるのだ。かつて、サムスンが将来を担う人材を育成する目的で選抜した社員を米国等に留学させたが、MBA取得と同時に現地で転職し、サムスンには戻らない若者が続出した。

日本で採用した韓国人を駐在員として韓国に派遣する企業が目立つようになったが、韓国駐在を嫌って日本で転職先を探した例もある。

日本企業の不安は転職率

いっぽう韓国人を採用する日本企業がもつ不安に転職率の高さがある。せっかく育てた人材が早期に転職すると企業にとっては損失であり、面接のときに、何年会社で働く考えがあるかを質問するケースは少なくない。

在韓日系企業でたびたび話題になるテーマに「将来ビジョン」がある。日本企業は会社のビジョンを語りがちだが、会社への忠誠心が希薄な韓国人は自身のビジョンを求めている。社員としての将来ビジョンは、韓国人の若者が会社に定着する一つの重要な要素である。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/10/post-11206_1.php
2018年10月30日(火)16時50分