ペンス米副大統領による中国政策に関する演説が米中関係に波紋を広げている。中国による知的財産権の侵害や軍事的拡張、米国の内政への干渉を公然と非難、両大国が覇権を争う対決の時代に入ったことを印象づけた。チャーチル英元首相がソ連を批判した「鉄のカーテン」演説に匹敵し、「新冷戦」の始まりを告げたとの見方も外交専門家に浸透しつつある。

10月4日、ペンス氏が保守系シンクタンク、ハドソン研究所で披露した演説は経済問題に限らず、政治、軍事、人権問題まで多岐に及び、トランプ政権の対中政策を体系立てて示す包括的な内容となった。

「北京は『改革開放』とリップサービスを続けるが、ケ小平氏の看板政策も今ではむなしく響く」

経済的に豊かになれば国民は政治的な自由を求め、やがて中国にも民主主義が広がる――。米国の歴代政権はこうした立場から「関与(エンゲージメント)政策」を推進し、2001年には中国の世界貿易機関(WTO)加盟も容認した。だが世界第2の経済大国となった後も、中国で政治的自由化が進む気配はない。

むしろ習近平(シー・ジンピン)指導部の下で統制は強まり、民主化の火は消えかけている。台湾の外交的孤立を図るなど、自らの戦略的利益を追求する姿勢も強まる一方だ。ペンス氏は米国が中国に手をさしのべてきた日々は「もう終わった」と断じた。

トランプ政権が対中政策の転換に踏み切るのは、国家資本主義という異質なルールに依拠した大国が経済・安全保障の両面で米国の覇権を脅かす存在となりつつあるからだ。

「中国共産党は関税や為替操作、技術の強制移転、知的財産の盗用、あめ玉のように配る産業補助金など、自由で公正な貿易に反する政策を多用してきた」

ペンス氏は米国の対中貿易赤字が3750億ドル(約42兆円)に膨張したのは、中国の不正なやり口で米国の製造業が犠牲になったためだと説明した。盗んだ民間技術を軍事転用するなど、安全保障上も脅威になっていると強調した。

「中国はほかの全アジア諸国を合わせたのと同じくらいの軍事費を投じ、陸・海・空で米国の優位を侵食しようとしている」

南シナ海での人工島や軍事基地の建設は「軍事化の意図はない」としていた習氏の約束と異なると非難、米軍は「航行の自由作戦」から撤退しないと宣言した。広域経済圏構想「一帯一路」も「借金漬け外交」と断じ、周辺国への影響力拡大を懸念した。

「中国は他に類を見ない監視国家を築いた。米国の技術の助けを借りて拡大し、侵略的になっている」

キリスト教福音派の支持が厚いペンス氏は、中国の人権問題も取り上げた。中国のインターネット検閲システムは自由な情報へのアクセスを妨げていると批判。中国向け検索アプリを開発するグーグルを名指しして計画の中止を求めた。キリスト教徒や仏教徒、イスラム教徒を弾圧し、他国にも抑圧を広げようとしていると警戒感を示した。

中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題でも「我々の政権は『一つの中国』を尊重し続けるが、民主主義を奉じる台湾の方が全中国人により良い道を示している」と踏み込んだ。

「中国は(トランプ氏とは)別の米大統領を望んでいる」

米情報機関から得た話として、中国は米国の選挙に影響を及ぼそうと政府当局者や産業界、学界、メディアに働きかけを強めていると指摘。ロシアの選挙干渉より大規模だと断じた。

ペンス氏は「中国の指導者は改革開放の精神に戻ることはできる」と対話の可能性を示して演説を締めくくったが、最後まで対中批判のボルテージを下げることはなかった。


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演説するペンス副大統領(10月4日、ワシントン)=AP
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37243610R01C18A1M11000/
日本経済新聞 2018/11/2 2:00