日本の韓国併合前夜、ソウル(当時の漢城)に暮らす日本人の一日を淡々と描写した「ソウル市民」を、青年団が22〜26日、兵庫県伊丹市のアイホールで上演する。作・演出の平田オリザが、そのスタイルを確立させた初期代表作。続編「ソウル市民1919」との2本立て公演だ。

 1909年夏、ソウルで文具店を営む篠崎家。朝鮮の生活になじめない母、「リベラリズム」を唱える文学好きの長女、日本人と韓国人の女中たちが繰り広げる無邪気な会話から、「支配者」として暮らす人々の「無意識の悪意」が、あぶり出されてくる。

 初演は劇団創設6年後の89年。「それまでの戯曲は、悪い軍人や政治家に庶民は虐げられている――という弱者の視点で描かれていた。植民地支配の本当の怖さをあぶり出すには、虫眼鏡ではなく顕微鏡のような新しいレンズ、リアルさが必要だった」と平田。

 既に、大事件や主義主張を描くのではなく、日常の会話を克明に描写する「現代口語演劇」の方法論を手にしていたが、「切れ味の良いナイフで、何を切っていいか分からない状態だった」。この作品で「理論と実践がマッチした」と振り返る。

 同じ一家の10年後を描く「1919」では、朝鮮近代史上最大の反日抵抗運動である「三・一独立運動」の開始直前という、歴史的な一日を切り取った。しかし、日本人たちは「お祭りかな?」などとのんきに話し、音楽を奏で、むしろ陽気に時間は過ぎていく。

 平田は「自己決定能力のある、自立した『市民』一人ひとりが植民地支配を選んだ。市民は決して、正しいことばかりをするのではない。その点において、今も変わっていないのではないか」と話す。

 80年代半ばに留学して以降、韓国との交流は30年以上に及ぶ。「留学の頃に比べれば、日韓関係は夢のように良くなった」。一方で「1919年3月1日に何が起きたか」を答えられる日本人の大学生は「1%いないんじゃないか」。「この差は国際関係としてはまずい。それは、広い意味の教育でやっていかないと、しょうがないと思う」

 17、18日には香川県善通寺市の四国学院大学ノトススタジオでも公演。(増田愛子)

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朝日新聞デジタル 2018年11月2日09時49分