【ソウル=鈴木壮太郎】

韓国経済の減速が鮮明だ。好調だった半導体産業が失速しつつあり、自動車など他の主要産業も2019年にかけて低迷が続く懸念が強い。外需に陰りがみえるなか、国内では文在寅(ムン・ジェイン)大統領が進める分配重視政策の副作用が目立つ。内憂外患の「文ノミクス」の軌道修正を求める声が韓国世論で強まっている。

韓国統計庁が28日発表した11月の産業活動動向では、鉱工業生産が前月比1.7%減と2カ月ぶりにマイナスに転じた。主力の半導体は同5.2%減だった。半導体の生産は5月にマイナスに転じて以来、低迷が続く。設備投資も半導体向けの落ち込みが響き、前年同月比で10%減少した。

半導体の変調は、主力のメモリー需要をけん引してきたデータセンター投資の鈍化が主因だ。好不調を繰り返す「シリコンサイクル」が消え、需要が伸び続ける「スーパーサイクル」に入ったとの楽観論は後退。好業績を謳歌してきたサムスン電子とSKハイニックスは10〜12月期に減益に転じるとの見方が強い。

半導体以外の見通しも暗い。シンクタンクの現代経済研究院によると、主要産業の景況は19年に軒並み悪化する見込みだ。文政権が5月に発足した17年には、鉄鋼や自動車の景況は「回復期」にあったが、19年は「沈滞」に逆戻りする。18年には好況だった「情報通信」(電機産業)も、19年は後退局面に入る。景況が上向くのは受注が底入れする造船ぐらいだ。

半導体と並ぶ主力産業の自動車は国際競争力の低下が著しい。最大手の現代自動車は7〜9月期の連結営業利益が前年同期比で8割近く減り、過去最低水準となった。寡占状態の韓国内で稼いだ利益を海外市場の開拓に注ぎ込むという戦略は、主戦場の中国市場で現地メーカーが台頭し、通用しなくなっている。国内も労使対立で生産コスト上昇に直面する。

文政権が「所得主導の成長」路線の看板政策として18年1月に実施した最低賃金の大幅引き上げも、景気を冷え込ませた要因だ。所得増を消費につなげて景気を浮揚させる狙いだったが、最低賃金の引き上げが前年比16.4%と大きすぎたため、コンビニや飲食店など零細自営業者の経営を圧迫。人件費抑制のための人員削減が広がり、狙いとは裏腹に雇用や消費の悪化を招いた。

韓国政府は17日、18年の成長率見通しを従来の2.9%から2.6〜2.7%に下方修正し、19年も横ばいと予想した。現代経済研究院は19年の成長率を2.5%と厳しく予想、「景気は下降局面」と判断する。SK証券の金孝津(キム・ヒョジン)資産戦略チーム長も「来年はより厳しい状況になる」と予測する。

内憂外患を映して韓国の総合株価指数(KOSPI)は年初の2500超から下落傾向が続く。新韓金融投資のアナリストは19年には現在2000強のKOSPIが1850まで下げる可能性があると予想する。5月の文政権の発足以降、株価が右肩上がりとなった17年からは様変わりだ。

世論の目は厳しい。毎日経済新聞の26日付の世論調査では経済政策への否定的評価が66%に上った。「文ノミクス」への逆風にもかかわらず、政権は規制緩和や最低賃金の引き上げペースの修正に言及はするものの「所得主導の成長」にはこだわる構えだ。産業活性化や最低賃金引き上げ凍結など成長重視への転換を求める経済界との溝は広がっている。

韓国ギャラップの21日の世論調査では文政権の不支持率は46%と初めて支持(45%)を上回った。景気の立て直しへの道が見えないなか、苦しい政権運営が続きそうだ。


2018/12/29付日本経済新聞 朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3954517028122018FF8000/