坂道を転げるような日韓関係の悪化である。今度は韓国国会の文喜相議長の発言だ。

 旧日本軍の慰安婦問題について、天皇陛下による謝罪の「一言」で解決すると述べ、日本政府や自民党内で反発が広がっている。

 日韓の間では昨年以降、元徴用工訴訟での日本企業への賠償命令、海上自衛隊機への韓国軍駆逐艦によるレーダー照射など問題が続いている。日韓両政府、特に文在寅大統領の側には穏やかに収めようとする姿勢がみられない。

 両首脳は関係の重みをどう考えているのだろう。問題の深刻さを見据えて沈静化の努力を傾けるよう、重ねて求める。

 米通信社とのインタビューでの発言だ。公表された音声データによるとこう述べている。

 「日本を代表する王(天皇)が(元慰安婦への謝罪を)するのがいいでしょう。その方は近く退位されるというので。その方は戦犯の、主犯のご子息ではないですか」。続けて、「だから、その方が(元慰安婦の)おばあさんの手を1回握り『本当に間違っていました』という、その一言で全てが解決するのです」。

 「天皇は…国政に関する権能を有しない」。憲法4条1項である。日本が過去に行った行為に関連して、天皇に謝罪を求めるのは憲法に照らしても問題が多い。

 文氏は韓日議員連盟の会長を務めた知日派だ。今の政権が発足したとき大統領特使として訪日し安倍首相と会っている。その人がなぜ天皇の謝罪に踏み込んだのか、理由はよくわからない。

 日本側が売り言葉に買い言葉で非難するのは賢明と言えない。日本が韓国の人々の意に反して朝鮮半島を植民地支配したのは事実である。歴史を踏まえれば、日本側には慎みが欠かせない。

 菅義偉官房長官は1月の記者会見で、慰安婦問題に関する日韓合意について「1ミリたりとも動かす考えはない」と述べた。こうした強い言葉で相手を刺激するのはよくない。

 関係が悪化する背景として、文大統領が北朝鮮や中国との関係を重視し日本への関心を薄れさせていることが指摘されている。

 日韓の協力は東アジアの安定に不可欠だ。改善する努力を重ねなければならない。

 差し当たり元徴用工問題への対応を急ぎたい。差し押さえられた日本企業の資産が売却されれば問題は修復不能になりかねない。日本政府は文政権に、交渉に応じるよう粘り強く働き掛けるべきだ。 

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190222/KT190221ETI090002000.php
信濃毎日新聞 2019(2月22日)