従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意の形骸化、元徴用工への損害賠償判決、海上自衛隊機への火器管制レーダーの照射――。日韓関係は国交正常化後、最悪の状態に陥った。徴用工問題では、賠償だ差し押さえだと日本企業への不利益が現実になっている。

こちらが冷静になろうとしても、徴用工問題では、差し押さえた資産の現金化の動きがある。日本政府は対応せざるを得ない。天皇陛下の謝罪を求める韓国国会議長の発言をやり過ごすわけにもいかない。この不愉快な隣国とどうつきあえばよいのだろうか。

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▲ソウルの日本大使館前で開かれた「竹島の日」抗議集会=22日(共同)

戦後の日韓関係にはおおむね3つの考え方が底流にあった。第1は「日本兄貴論」である。いち早く経済大国になった日本が、発展途上の韓国に配慮すべきだというものだ。しかし、経済発展を遂げた韓国は、今ではむしろ日本との対等意識を強めているのが現状だ。

第2は「韓国特殊論」である。植民地支配という特別な歴史を踏まえ、日本の贖罪(しょくざい)意識、韓国の被害者意識を前提におく論理だ。人道の観点からないがしろにできないが「賠償請求の問題は解決済み」とする出発点をちゃぶ台返しされると、日本の譲歩の余地は狭まる。

第3は「戦略的思考論」だ。冷戦時代は米国の主導のもと、ソ連の脅威に対抗するための日韓連携が重視されたが、この考え方も古くなった。日韓漂流は、両国を相互協力に導く基本概念の喪失が生んだともいえるのではないか。

ただ、戦略的思考論は今なお有効だ。例えば、慰安婦や徴用工の問題で日本が「逆ギレ」しても、いいことはない。個人の人権意識が高まるなか、日韓でよい前例を作っておかないと、やはり元慰安婦、元徴用工がいる中国や北朝鮮が将来、この問題を蒸し返し、日本企業が被害を受けないとも限らない。

輸出立国である韓国にとっても、保護貿易がはびこる危機を前にした日韓連携は重要だ。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は日韓が主導するのが望ましい。今は親中姿勢ばかりが目立つが、中国の覇権主義への警戒感は、韓国にもある。

反日が止まらない韓国も、いつかは新しい戦略的思考論の大切さに気付くだろう。その時まで、不愉快であっても両国関係を制御していくしかない。

(ペン尻)

ソース:日本経済新聞<不愉快な韓国とどうつきあうか(大機小機) (写真=共同) :日本経済新聞>
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41804100X20C19A2EN2000/