韓国のソウル高裁は6日、在任中に巨額の賄賂を受け取った罪などに問われ、一審で懲役15年などの実刑判決を受けた李明博(イ・ミョンバク)元大統領(77)の保釈を許可した。李氏は控訴しているが、高齢で睡眠時無呼吸症候群などの症状があるため、保釈が認められたという。

昨年3月の逮捕以来、約1年ぶりに身柄拘束を解かれた李被告はソウル市内の自宅に戻った。住居は自宅に限られ、家族や弁護士以外との接見や通信も制限される。控訴審でも実刑が言い渡されれば、再び拘束される可能性もあると現地で報じられている。

 李被告は自身への捜査について文在寅(ムン・ジェイン)大統領による「政治報復だ」と批判していた。大統領在任中、前職の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は不正資金疑惑の取り調べを受け、直後に自殺している。文大統領は盧氏の側近だったため、報復のため捜査に及んだというのが李被告の言い分だ。

 韓国民は収賄に憤りを感じながらも、元大統領が「政治的な報復」と主張すると腹に落ちる。大統領経験者では、これまでに全斗煥氏、盧泰愚氏、朴槿恵氏と李被告の4人が逮捕されている。金泳三、金大中の両元大統領は息子が逮捕された。悲惨な末路が決まり事のようになっているのは、左右両派の対立が激しいからだと韓国では受け止められている。

 日本による植民地支配や南北分断といった歴史を抱える韓国は、今もイデオロギーの違いで政治的立場が大きく異なる。人脈を重視する社会でもあるので、大統領が変わると政治任用ポストが一斉に交代し、政権の中枢にいた人は行き場がなくなる。だから次に自分たちが政権側に就いたときは、反動として下野する勢力への対応がきつくなる。その頂点にいる大統領経験者は在任中の行為を厳しく点検されると世論は理解している。

 李被告は在任中、島根県・竹島(韓国名・独島)に上陸したほか、天皇陛下の訪韓に関して「(日本の植民地支配からの)独立運動で亡くなった方々を訪ねて心から謝罪するのならよい」と発言した。常軌を逸した行動は自身の支持率が下がるなかで、退任後の自らの身柄を案じたためとの分析もあった。李被告は元大統領への捜査について「今回が最後になることを願う」とかねて訴えていた。イデオロギー対立を諫めた言葉とも、自身の捜査への不満をぶつけたものとも受け止められた。

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日経ビジネス 2019年3月7日