■トランプが文を見捨てた北朝鮮核問題の経緯
 
トランプと文の関係悪化の根源は北朝鮮問題にある。2017年、世界を恐怖に陥れた北朝鮮核問題。その後、どうなっているのだろうか?簡単にこれまでの経緯を振り返ってみよう。

2017年、北朝鮮は狂ったように核実験、ミサイル実験を繰り返していた。この年、世界は2つの陣営に分かれていた。すなわち、日本、米国を中心とする「圧力派」と、中国、ロシアを中心とする「対話派」だ。

「対話派」の中ロは、「前提条件なしの対話」を求めていた。一方「圧力派」の日米も戦争を望んでいたわけではなく、「非核化前提の対話」を要求していた。

2018年3月、金は訪朝した韓国特使団に「非核化前提の対話をする準備がある」と伝える。つまり、金が日米側に妥協したのだ。それでトランプは、「金に会う」と宣言した。

これで「圧力派」は消滅し、世界中が「対話派」になった。しかし、今度は「対話の中身」で2つの陣営に分かれる。すなわち、日本と米国の「完全非核化派」と、中国、ロシア、北朝鮮の「段階的非核化派」だ。

日米の立場は、「完全非核化」すれば「体制保証」「制裁解除」「経済支援」などを与えるというもの。では、「段階的非核化派」とは何だろうか?

北が少し非核化する。
国連安保理は、少し制裁を解除する。
その上で、北はまた少し非核化をする。
国連安保理は、また少し制裁を解除する。

このサイクルを繰り返し、徐々に完全非核化を実現すればいい、という考え方だ。そして、中国、ロシア、北朝鮮は「北はもうすでに少し非核化したのだから、制裁を少し解除すべき」と主張している。

トランプは、2月28日にベトナムで開かれた米朝首脳会談で、「金正恩は、寧辺核施設の廃棄を提案し、その見返りとして完全な制裁解除を求めてきた」と語った。一方、北朝鮮の李容浩外相は、「北朝鮮は寧辺の核施設廃棄の見返りとして制裁の一部解除を求めた」と説明した。

両者の話には食い違いがある。しかし、中ロ北「段階的非核派」のもともとの主張は、「一部非核化したら一部制裁解除」である。

■米北関係はキツネとタヌキの化かし合いである
 
なぜ金は、かたくなに「完全非核化」を拒否するのだろうか?答えは「米国を信じることができないから」だ。

そして、その責任は米国自身にある。

2003年3月、イラク戦争が始まり、フセイン政権はあっさり崩壊した。これを見たリビアのカダフィは同年12月、核兵器を開発していた事実を認め「無条件で破棄する」と宣言した。これで、リビアと欧米の関係は大いに改善され、2006年には「テロ支援国家」指定が解除された。

しかし、勇気を持って欧米と和解する道を選択したカダフィは、長生きできなかった。2010年、中東、北アフリカで民主化運動(いわゆる「アラブの春」)が起こり、リビアにも波及。この時、欧米は、なんと「反カダフィ派」を支援したのだ。

2011年3月には、NATO軍がカダフィ陣営への攻撃を開始。彼は、同年10月、欧米が支援する反体制派に捕まり惨殺された。死の間際、カダフィは「欧米を信じた俺がバカだった!」と後悔したに違いない。

こんな前例があるので、金が米国を信じることができないのは当然だ。

では、なぜ米国は「段階的非核化」を拒否するのだろうか?これは、米国は米国で、北を信じることができないという事情がある。

米国は、北朝鮮がウソをつき続けてきたことを知っている。

1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食糧、年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同声明」で「核兵器放棄」を宣言している。 しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らかだ。

日本政府はこのことをよく覚えていて、「ナイーブなトランプがだまされるのではないか?」と懸念していた。しかし、トランプは意外としっかりしていて、2018年6月、2019年2月の米朝首脳会談で妥協することはなかった。

トランプが踏ん張ってくれたのは、日本にとって「うれしい誤算」である。しかし結局、どちらが正義ということではなく、米北関係は「キツネとタヌキの化かし合い」なのだ。

2019.5.7
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