新潟県南魚沼市市野江の廃寺を活用した民宿「ホタル」が9月から、韓国人に限って宿泊料金を半額にするセールを始めた。徴用工や輸出管理、安全保障の問題で日韓関係は最悪と呼ばれる状況になっているが、「人同士が理解し合えば仲良くなれるはず」と、韓国にとどまらず、世界の宿泊者との草の根の交流の重要さを呼びかけ続けている。

 「ホタル」は上越新幹線浦佐駅から徒歩約20分。南魚沼市出身で同市在住のフリーライター、黒岩揺光さん(38)が支配人を務める。建物は上越市にあった寺を移築したもので、築約250年。内部は床面積約90平方メートルで板の間、畳の間、台所、トイレなどを完備し、一角には仏壇や観音堂があり、お寺だったことを伝えている。家族やグループなど1日1組限定で、食事の提供はなく素泊まり3000円から。年中無休だ。

 黒岩さんは元毎日新聞記者で、退職後に国連職員などを務めた後にUターン。昨年7月にホタルをオープンした。10代でアメリカに留学し、タイやケニアなど9カ国で暮らした経験がある。旅行で訪れた国も多く、世界各国に友人がいる。

 黒岩さんはヨルダンに在住していた2016年、長男を出産する際の帝王切開の事故で、同じ国連職員で33歳だった韓国人の妻を亡くした。そうした経緯があり、日本と韓国の関係悪化に心を痛めた。宿泊料金を半額にしたのは、韓国から少しでも多くの人が日本を訪れてほしいと願うからだ。黒岩さんは「妻が亡くなった後も多くの韓国の人にはお世話になった。そのお礼がしたい」と話した。

 ホタルには、黒岩さん自身の豊富な国際経験に加え「日本のお寺に安く泊まれる」ことが外国人の人気を呼び、韓国だけではなく世界中から宿泊者が訪れる。宿泊者の半数は外国人で国籍は25カ国に及ぶという。

 9月6〜8日の2泊3日、オーストラリア・シドニー出身で現在、東京都内でシステムエンジニアとして働くジェームズ・ホートルさん(26)が家族3人で滞在した。到着して玄関の扉を開けると同時に、一斉に感嘆の声を上げた。天上が高く露出した大きなはり、畳、仏像などに目を奪われたという。ホートルさんは「ここを訪れたのは初めて、お寺に泊まれるということで予約した。建物は古くて美しく個性がある。歴史や人の営みを感じる。来て本当に良かった」と堪能な日本語で話した。ホートルさんは滞在期間中の計画は立てていなかったが、3日間、周辺にある自然の中を散策したり、稲刈りイベントに参加したりして、自然や交流を楽しんだ。「静かで心が安心でき、いやされた。自然を見て触れるだけで十分楽しい」

 ホタルという名には「暗闇の中で光を放ち続ける」というイメージが込められているという。訪日客にとっても「ホタル」のような存在であり続けたいと、黒岩さんは願っている。【板鼻幸雄】

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191003-00000007-mai-soci
10/3(木) 9:25配信 記事元 毎日新聞