「世界3大投資家」の一人とされるジム・ロジャーズ氏の本誌連載「世界3大投資家 ジム・ロジャーズがズバリ予言 2020年、お金と世界はこう動く」。今回は新型コロナウイルスとメディアについて。

 中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染者数は世界で9千人を超え、中国国内の感染者数は、2002年から03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染者数を上回っている。

 新型肺炎の流行に対する懸念が世界中に広がっているようだ。ところが私が実際に目にした光景は少し違っていた。先日、講演のために武漢市を訪れたが、大きなトラブルは目にしなかったし、市民は肺炎のことをほとんど知らないようにも見えた。

 講演会場で千人くらいの人々と会って話をしたけれども、今のところ体調に変化はない。私はそもそも心配しない性質だが、大勢が集まる場所に足を運ぶことで病気になるかもしれない、と気に病むことはなかった。実は渦中の街に1泊2日し、新型肺炎とは全く関係のない別の理由で市内の病院にも行ったが、院内の様子は特に変わりはなかった。患者のほとんどはマスクすらしていなかった。

 その後、海外で武漢のニュースが大きく報じられるようになり、大パニック、大問題になった。私がいたときは(封鎖前で)、米国や日本のメディアはすでに街中にあふれていた。また一つ、中国が抱えている問題を指摘しようと駆け回っているようにも見えた。中国のミスや欠点を大げさに書けば、新聞や雑誌の売り上げを上げるチャンスになるからだ。

 すべての新聞などメディアは「私たちこそが真実を報道している」と主張しているが、果たしてすべてが真実だろうか。私は新聞を1紙だけ読んでも、真実は何もわからないと思っている。私がなるべく多くの新聞に目を通すようにしているのは、そのためだ。

 また、米国と日本の新聞の報道だけを見ていては、世界で何が起こっているのかわからない。中国やロシアのメディアにも関心を払い、新興国のメディアにも目を通しているうちに、何となく本質が見えてくることもある。そういう意味では、世界をミスリードするのはメディアの仕事だとすら言える。新年早々、米国とイランの対立が先鋭化したときにも、同じ状況だった。世界のメディアは「第3次世界大戦の勃発か」とあおったそうだが、本当に第3次大戦が勃発するかどうかより、そうやって興奮して書かなければ、新聞や雑誌が売れないと考えているのではないか。

 実際は、米国とイランの緊張については、それほど大きな変化は起きていないとみている。米国は以前からイランを憎んでいるし、イランも米国を憎んでいる。その構図は少しも変わっていない。米国が実施している対イランの長期的な制裁は、ほとんど効果を上げていない。歴史的に、人々は制裁からうまく逃れる方法を見つけるものだ。制裁好きの政治家たちがいくら拳を振りかざしても、最終的にはブラックマーケットが成長し、人々は、たくましく暮らしていく。

 私は第3次世界大戦が起きると思ったことは一度もないが、世界の多くの人々が「第3次世界大戦が起きると思った」こと自体については、変化ととらえるべきかもしれない。

 時として、大衆はニュースに過剰反応することを知っておくべきだ。感情はマーケットを動かすエンジンとなりうる。パニックに陥ると、買う必要のないモノを慌てて買ったり、売らなくていいものを投げ売りしたりする。投資で成功するには、自分というものがわかっていなくてはならない。どんなときに冷静になり、パニックになるのかを知っていれば、きっとうまくやることができるはずだ。

(取材/守真弓・朝日新聞シンガポール支局長、構成/本誌・小島清利、監修/小里博栄)

※週刊朝日  2020年2月14日号
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200205-00000080-sasahi-bus_all