新型コロナウイルス感染症(武漢肺炎)が拡大の勢いを強めていた先月29日、ソウルの地下鉄駅291カ所の改札口に、マスクを収めた無人の籠が登場した。手の洗浄剤もセットで備えてあった。まだマスクの用意ができていない乗客のため、ソウル交通公社で用意したものだ。交通公社は、このためにソウル市からマスク150万枚の支給を受けた。

 ところが、わずか2日後の31日、その無人の籠は一斉に片付けられた。籠があった場所には「マスクが必要な方は駅員室に来てください」という案内文が掲示された。交通公社の関係者は3日、「乗客が一度に数枚取っていくケースが続出し、やむを得ず有人支給の方式に変えた」として「150万枚の内、現在残っているのは70万枚(47%)にすぎず、追加供給を受ける予定」と語った。

 マスクが箱ごとなくなったこともあった。4号線明洞駅では一部の乗客が、駅で配るために備え付けてあるマスク50枚入りの箱をそのまま持っていく様子がたびたび目撃された。駅の関係者は「箱ごと持っていく人は韓国人か、そうでないときは主に中国の観光客とみられる」として「付近のコンビニや薬局で品切れになり、簡単には購入できなくなるや、無料マスクに欲を出したらしい」と語った。予想以上に早くマスクが品切れになったことで、マスクの需給状況が一段と悪化しかねないという懸念が持ち上がっている。当初、ソウル市が目標としていた地下鉄駅舎備え付け用マスクの確保量は1116万枚だった。しかし実際に備え付けられたマスクは210万枚(バスを含む)にとどまった。その上、一部の市民がまとめて持っていくので、既に半分の水準まで落ち込んでいる状況だ。

 マスクだけでなく手の洗浄剤まで容器ごと持っていくという事件も起きている。交通公社によると最近、地下鉄1号線祭基洞駅に備え付けていた手の洗浄剤がまるごと姿を消した。乗客が手に塗ることができるよう備え付けられたもので、1日2本が空になるが、それを午前中に何者かが丸ごと持っていったのだ。駅の係員は、同様のケースを防止するため、手の洗浄剤を備え付けの台にひもで固定した。市のキム・ジョンイル疾病管理課長は「地下鉄駅だけでなくソウル市庁でも最近、洗浄剤が丸ごとなくなるという事件があった」と語った。

 市の関係者らは、市民に「良心的な利用」を訴えている。羅伯柱(ナ・ベクチュ)市民健康局長は「事態に共に打ち勝っていける、成熟した市民意識を示してくれるだろうと期待している」と語った。

鄭智燮(チョン・ジソプ)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
http://www.chosunonline.com/m/svc/article.html?contid=2020020780142

2020/02/09 06:06