先日、中国版のツイッター(ウェイボー)に武漢市内のあるマンションのベランダで女性が鐘をたたきながら「コロナにかかった母を助けてください」と泣き叫ぶ動画が公開された。母親は感染が確認されたにもかかわらず、入院できない状況にあるというのだ。何度救急電話をかけても「ベッドがない」という理由で救急車を送ってくれなかった。バスや地下鉄、タクシーの全てがストップしているため、母親を病院に連れていく手段もない。自家用車など車の走行も全面的に禁止された影響でガソリンスタンドも閉鎖している。今、武漢での移動手段は自転車と人間の足しかない。80年前に日本と戦争したときもこれほどにはならなかったという。

 武漢で孤立しているある外国人が外出を準備する様子を撮影した。マスク2枚に水泳用のゴーグルを装着していた。分厚い手袋もはめていたが、エレベーターのボタンは膝で押した。ソウルよりも大きい都市で、車であふれかえっていた武漢の8車線道路は閑散としている。飼い主を失った犬は通りをさまよっている。薬局のガラスには「マスク売り切れ」と書かれた案内が貼られている。映画で見たような幽霊都市がまさに現実となっているのだ。

 患者が急増すると、武漢市は132カ所のホテルや学校などを臨時の隔離施設に指定した。主婦のワンさんは「医療関係者が常駐している」という当局の説明を信じ、父親と叔父をあるホテルに行かせた。ところがその日の夜、父親が電話で「医師も看護師もいない。酸素呼吸器どころがマスクや消毒液もない。食事は冷たく固まった飯の塊だけ」と連絡してきた。翌日には叔父がそこで死亡した。「ホテル」から脱出した父親は「暖房もない場所でできるのは死を待つことだけ」と訴えたという。

 先週「陰性」との判定を受けた武漢市内のある女性は「病気にかかっていないという意味ではなく、ベッドがないという意味だろう」と話した。政府は信じられないということだ。このような不信の中で、武漢発のさまざまな情報が中国のSNS(会員制交流サイト)に飛び交っている。削除しても削除しても拡散している。「小杭」というニックネームを名乗る女性は肺炎で両親を失い、自らも闘病中という内容を日記形式でアップした。「病院はどこも入院不可」「誰も助けてくれない」「助けてください」という内容だ。真偽は分からないが、一部のネットユーザーはこの女性の書き込みを「武漢版アンネの日記」と呼んだ。

 現時点で武漢を含む湖北省だけで、中国全体の死亡者の96%を占めている。周辺の浙江省では1100人以上の感染者が確認されたが、全員を病院に収容できたため、昨日時点で死亡者は出ていない。武漢も共産党が真実を隠蔽(いんぺい)せず一日も早く対応していれば、今のような災難は阻止できたはずだ。習近平国家主席は昨日やっと防疫対策現場に顔を出した。武漢市民が苦痛から解放されることを願うばかりだ。

アン・ヨンヒョン論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
http://www.chosunonline.com/m/svc/article.html?contid=2020021480128

2020/02/16 06:05

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