◆ジャーナリスト・崔 碩栄◆

元慰安婦支援団体の不正問題が、韓国国内をざわつかせている。

元慰安婦の李容洙氏が、支援団体の正義記憶連帯(旧韓国挺身隊問題対策協議会)と、その団体前理事長の尹美香氏を非難したことで始まった今回の騒動は、不正疑惑が次々と明るみになり、韓国社会に大きな衝撃を与えている。

◆不動産と留学に資金流用か

不正疑惑のポイントは、元慰安婦のおばあさんたちを前面に押し出して集めた募金、政府や企業から受け取った莫大(ばくだい)な資金が、ずさんな管理により、使途不明のまま消えてしまったということだ。

団体に対する不信感が高まる中、尹氏は、申告していた収入からは購入が難しいと思われる不動産を現金で買っていたことや、尹氏の娘が、高額の費用が必要な米国の音楽大学に留学中であるという事実が判明し、尹氏に、資金を流用したのではないかという疑惑の目が向けられるようになったのだ。

これに対し、尹氏は、年間800万円近くも掛かるという娘の米国留学資金は、夫が国家から受け取った補償金で準備し、学費は全額奨学金で賄っていると弁明した。

しかし、夫が補償金を受け取ったのは、娘の留学から2年後のことであり、米国の州立大学が外国籍の学生に破格の奨学金を供与することはないとの指摘も出され、非難の声がますます高まった。

◆「攻撃は親日派によるもの」

「金銭問題」から始まったこの騒動は今、「政治問題」にまで発展している。

尹氏は4月の総選挙で、与党の比例代表として当選し、6月からは国会議員の席に座ることが決まっている。

野党は、即刻辞任すべきだとプレッシャーをかけ、与党は、日本を相手に戦ってきた尹氏への攻撃は親日派によるものだと反論、国民感情に訴えかけた。

与党は、一部に問題があったとしても、尹氏が辞任するような事案ではなく、これまでの尹氏の業績を考慮すべきだと擁護しているが、国民の目から見れば、違和感を覚えずにいられない。

比例代表である尹氏が辞任したとしても、他の候補がその席に座ればよい。与党の議席数は変わらないのに、道徳的とは言い難い尹氏の疑惑が次々と明らかになりつつある状況下で、かばい続けなければならない理由は何だろうか。

むしろ与党のイメージが損なわれないよう、けじめをつけさせるのが得策ではないだろうか。

◆夫は筋金入りの親北活動家

さらに、この政治問題は「北朝鮮問題」にまで飛び火した。尹氏と尹氏の夫が慰安婦休養施設に脱北者たちを呼び、再び北朝鮮に戻るよう懐柔したと告発されたのだ。

マスコミの報道によると、彼らは北朝鮮の指導者を「首領様」、「将軍様」と呼び、北朝鮮の革命歌謡を歌ったという。「脱北は罪だ」とも語り、脱北者はがくぜんとしたという。

尹氏の夫は、日本で活動している在日韓国民主統一連合(韓統連)から、資金を受け取り、韓国の情報を報告し、過去にスパイ容疑で逮捕されて服役したという筋金入りの親北活動家だ。

尹氏もまた、金正日氏の死亡時に哀悼の意を示し、弔電を送ったとされ、その親北的な活動が批判されてきた人物である。

もし尹氏夫妻の活動が今なお、北朝鮮とつながっているとの証拠が出れば、慰安婦論争は、出口の見えない大混乱に陥る可能性が高い。

◆施設職員たちの告白

慰安婦をめぐる話題で最近、最も衝撃的だったのは、元慰安婦たちが劣悪な環境の施設で暴言を浴び、虐待を受けてきたという施設職員たちの告白だ。

しかし、残念ながら、韓国の左派と右派、与党と野党、そしてメディアは、元慰安婦の福祉や生活に対するケアには、あまり興味を示さず、隠蔽と弁明、相手を批判することに力を入れている。

韓国は慰安婦問題を語るとき、日本に対し、常々「人権」を叫んできたが、本当に人権に関心を持っているのだろうか。

元慰安婦たちは、過去に戦争という不幸な時代に巻き込まれた犠牲者だった。そして今も、自分とは関係のない金(貪欲)、政治(主導権争い)、北朝鮮(イデオロギー)という問題に振り回されている犠牲者であるように思えて仕方ない。

(時事通信社「金融財政ビジネス」2020年6月15日号より) 2020年06月21日09時00分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020061900629&;g=int