「韓国よりも格下」という価値観  


本書で11冊目となる『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズは、池上彰氏による世界年鑑だ。
新型コロナウイルスによる感染症がパンデミックに発展したことでグローバル化に歯止めがかかりつつある。この状況をわかりやすく説明している。

池上氏は、〈相手を理解するには、その国の人の宗教観や世界観に立たない限り「なぜそう考えるのか」が理解できません。
これが「内在的論理」を理解するということです。世界のさまざまなニュースの裏にはさまざまな国の歴史や文化、
哲学があります。違いを知ろうとしてほしいと思います〉と述べる。

評者も相手の内在的論理を知るというアプローチが世界を理解するために不可欠と考える。
もっとも相手の内在的論理を知ることは、その論理を受け入れることを意味するものではない。例えば、韓国の対日感情についてだ。

〈韓国で使われている中学校の歴史教科書の日本語訳を見ると「日帝(日本帝国主義)の蛮行は世界史に前例のないことだった」と書いてあります。
世界史を見れば、ヨーロッパの植民地政策は、多数の蛮行を伴っていました。日本の植民地政策を擁護するわけではありませんが、
「世界史に前例のないこと」ではなかったのです。

考えてみると、朝鮮戦争のときには中国軍が北朝鮮軍を支援して韓国に攻め込みました。
韓国人が大勢殺されたにもかかわらず、中国に対しては何も言いません。謝罪を要求することなど一切ありませんでした。

つまり根底にあるのは「中華思想」から抜けられないということでしょう。
「中華」とは「中国が世界の真ん中」という意味です。中華こそが文明国であり、ほかは野蛮な国だという考え方で、
中華から離れた土地へ行けば行くほど野蛮度が高くなります。

朝鮮は中華の傍で一生懸命に漢字を学び、漢文を読み、儒教の教えを継承してきました。中国の隣に位置する自分たちの国を「小中華」と考えていたのです。
自分たちは中国よりはワンランク下だけど、さらにその先の島国の日本は自分たちより格下です〉。

池上氏が指摘するように韓国の中国観は甘い。さらに朝鮮戦争中、米軍は朝鮮半島各地で共産勢力一掃との口実で虐殺を行ったが、
その事実についても韓国ではあまり強調されない。

これに対して北朝鮮は米軍の残虐行為を強調する。もっとも中国軍の非人道的行為について北朝鮮は一切口をつぐんでいる。
同じ出来事でも現在の政治的立場で評価は大きく異なるのだ。「小中華」を切り口にすると韓国の対日観の特徴が見えてくる。

〈その格下の国に侵略され、占領されたという過去の歴史は屈辱的であり、とても受け入れ難いのです。
韓国の朴槿恵前大統領は「加害者と被害者という立場は、1000年経っても変わらない」と言いました。
この「恨」の思想が朝鮮文化にはあるのです〉。

日本人が韓国人の「恨」の文化を理解することは重要だ。しかし、「恨」の歴史観を共有することはできないし、またその必要もない。


佐藤優

作家・元外務省主任分析官。1960年生まれ。同志社大学神学部卒業後、外務省に入省。ロシア大使館、国際情報分析第一課などで情報活動に従事し、
「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年に背任容疑で逮捕。著書『国家の罠』で鮮烈デビュー。『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73522