私が、「 教科書改革」に懸命に取り組んだのも、その重要な 一環でした。
それまでの 教科書には「 大陸中国」のことばかり詳しく書かれていて、
肝心要の「 台湾」のことなどほとんど書かれていませんでした。
本当に台湾人の台湾人による台湾人のための歴史と文化を知ろうとすれ ば、
日本による統治時代のことも出てくるでしょう。

しかし、戦後、大陸から台湾に来た為政者たちが、自分たちの失政の歴史を
知られることを恐れるあまり、それ以前の後藤新平や新渡戸稲造らの果たした
役割までひた隠しにして、日本統治時代をすべて否定するようなことをすれ ば、
かえって子供たちの健全な精神的発育に害を与え だけでは ないか。

私はそう考えて、日本による統治時代に台湾の社会的基盤が構築されたことを、
正しく評価する教科書づくりに取り組んだのです。
同じ日本統治の下にありながら、韓国の人々がいまだに極めてアンビヴァレントな
対日感情から脱却できないのは、「 教育改革」と大きな関係があると思います。

李登輝. 「武士道」解題(小学館文庫)第十四章抜粋