韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が2019年に「独立有功者の全数調査」を始めると言いだしたとき、内部では反対が少なくなかったという。調査対象者が1万5000人に達する上、その大勢の人の過去をいちいち全部ほじくり返したらどんな不測の事態が起こるか分からない、という懸念があったからだ。

「ずっと前に世を去った方々を、また審判台に立たせるべきなのか」という反発もあった。だが現政権は調査を強行した。順調には進まなかった。予告されていた6カ月の調査期間を超え、1年半が経過しても結果は音沙汰なしだった。

そうした中で最近、第1次分として調査を終えた619人のうち、親日行跡の疑いがあって叙勲取り消しを検討すべき16人のリストが行政安全部(省に相当)に渡されたが、ここで当惑してしまう光景が出現した。

文大統領が今年6月に顕忠院の追悼式で独立軍の英雄として賞賛した崔振東(チェ・ジンドン)将軍が、リストに含まれていたのだ。大統領自ら独立有功者として褒めたたえたのに、その人物の勲章を剥奪しなければならない状況に置かれたわけだ。

ひとまず「遺族に説明の機会を与える」という理由で発表を保留した韓国政府は、慌ただしい雰囲気だ。「一体誰がなぜ、こんな全数調査をやろうと言ったのか」という愚痴も出たという。

崔将軍だけでなく、中学・高校の教科書に作品が幾つも載っている韓国近代文学の巨頭の一人も、今回の調査で親日行跡を指摘された。親日派だと最終的に烙印(らくいん)を押されたら、教科書から作品を全て削除しなければならないということもあり得る。

文大統領が2017年の光復節慶祝演説で「光復をつくった主人公」の一員として言及した学者の一人も、親日履歴があったことが発覚した。

崔将軍の遺族は反発している。記者に直接電話をかけてきて「時代的状況を理解していない誤解」だと説明した。崔将軍の親日論争は1960−70年代に中国で起きた「文化大革命」の渦中で、中国にいた崔将軍一族が「財産が多い」という理由で批判の対象になったところから始まったという。

一部の親類が、自分たちだけでも批判から逃れるために「一族の父(崔将軍)は親日派」という形でののしったのが始まりだった−という説明だ。崔将軍が日帝に「国防献金」をしたという疑惑もあるが、これは「崔将軍の妻がこっそりやったことで、後で知った崔将軍は激怒して絶縁まで行った」と主張した。

こうした主張が事実かどうかは検証が必要だ。ただし韓国の親日派弁別法は、あまりにうるさ過ぎて過酷だ。小さな「欠缺(けんけつ=要件が欠けていること)」だけで全体を断罪したりする。日帝36年間を平凡に、税金を納めて暮らした人ですら全て親日派として追うようなものだ。

過去の軍事独裁時代に民主化運動へ身を投じなかったのなら全て反逆者扱いする論理と、大差はない。韓国政府の関係者らが「尹奉吉(ユン・ボンギル)、安重根(アン・ジュングン)義士は早々と殉国したので、論争を避けていけたのではないか」と自嘲するのも無理はない。

今回の調査を通して、現政権は「新たな親日派」を発掘し、いま一度「親日追い込み」で政治的波及効果を狙ったのかもしれないが、結果的には自分の足を切ってばかりいる。

2020/08/23 10:00/朝鮮日報日本語版
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