【北京=川手伊織】中国で不動産開発企業の経営難を起点に、金融と財政が同時に悪化している。銀行では不動産融資の焦げ付きが増え、工事が止まった物件で住宅ローンの返済拒否が広がる。地方政府が国有地の使用権売却で得る「土地収入」も落ち込む。7月のマンション販売は前年同月比3割減と低迷が続き、苦境の出口は遠い。

不動産の苦境は政府の規制強化が発端だ。バブル抑制のため2021年に開発企業向け融資や住宅ローンを絞った。新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策で景気も悪化し、22年1~6月の住宅販売面積は前年同期比27%減った。調査会社の中国指数研究院によると、7月も主要100都市で前年同月比27%減、前月比も13%減った。

中国恒大集団など開発企業は負債を膨らませて新規物件を開発してきた。金融規制の強化などで不動産業の成長モデルは逆回転した。資金繰り難で債務不履行(デフォルト)が急増した。

中国の調査会社Windによると、返済の先送りを含む債務不履行(国内債のみ)は8月8日までの1年間で99件あった。その前の1年間の2.2倍に膨らんだ。米S&Pグローバルは、格付け対象となっている開発企業の少なくとも2割が破産危機に直面していると警告する。

銀行融資にも影響が出始めた。中国の不動産融資残高は全体の26%を占める。21~22%台だった日本のバブル期より高い。国有大手4行の不動産業向け不良債権比率は21年末時点で3.8%と、1年で1ポイント以上悪化した。

開発企業の資金繰り難で、マンション建設が中断する未完成の物件が相次いだ。不動産シンクタンク、易居不動産研究院の厳躍進氏は、22年6月までの4年間に販売された新築物件の4%近くが問題物件だと試算する。

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中国は過去20年間、不動産投資で経済を押し上げてきた。米ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏らの分析によると、不動産関連の国内総生産(GDP)に占める比率は29%に及ぶ。1990年代末の10%未満から存在感を高めてきた。20%以下の日米欧と比べて、不動産依存が際立つ。

ロゴフ氏らは広義の不動産関連の投資が20%減少すると、中国のGDPは5~10%減るとはじく。都市部雇用の15%超を占める不動産業と建設業の不振は、雇用不安を増幅させかねない。

「チャイナ・ショック」と呼ばれた15年の景気減速期は、力強い個人消費がその後の景気回復をけん引した。足元では雇用の悪化が長引いて貯蓄志向が強まり、個人消費に力強さはない。

中国は秋の共産党大会を控えて「政治の季節」に入った。新指導部の人事が固まるまで、経済政策の大胆な変更は期待しづらい。政策空白で不動産苦境への対応が遅れれば、金融と財政の同時悪化による「複合不況」を招く恐れもある。

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