・「地獄の地」北朝鮮
 今年の東アジア情勢は、激動の一年になるかもしれない。

 2023年末に、北朝鮮の金正恩総書記が韓国とは「敵対関係」であると明言したうえ、
年始に入るとさっそく砲撃を始める大暴走ぶりを見せている。韓国では文在寅政権時代に北朝鮮寄りに動き、
統一に向けて動いていたが、いまやその関係は完全に壊れかけていると言っていいだろう。

 そうした中で、私が気になるのは、在日として日本で過ごした後、北朝鮮に「帰国事業」で送られた人たちのことである。
1950年代から1984年にかけて行われた「帰国事業」で、在日の人たちの親類、縁者が北朝鮮に渡った。私の家族もその1人だ。

 当時、叔父は朝鮮大学生だったが、金日成の還暦(1972年)を祝って朝鮮大学から自分の意思に反して選ばれて、
帰国(留学)させられた。
私がまだ幼少だったが、学生の叔父が家族を置いて北朝鮮に帰ることが不思議で仕方なかったことを覚えている。

 「楽園」と聞かされて行った北朝鮮が「地獄の地」であったことを、私は何人もの在日脱北者から聞かされてきた。
私も日本から韓国に移り住み、そこで多くの在日脱北者の人たちとであい、話を聞いてきた。

 だからこそ、いま北朝鮮にまだ残っている人たちのことが気になって仕方がないのである。
東アジア情勢が緊迫すればするほど、彼ら、彼女らの身についても考えざるを得ない。

・在日脱北者の想い
 私の叔父への送金は、コロナ禍では止まっていたが、最近再開し始めたと聞いた。
うちの叔父への送金は、中国経由で持ち込んでいるようだ。

 一方で、最近はそうした送金も減ってきていると聞く。私の親の世代の送金がピークだったことは言うまでもないが、
最近は北朝鮮から韓国へ命からがら脱北した親戚が会いたいと言ってきても、中々会わない人もいるというから心が痛む。

 当時を知る者たちも少なくなり、若い人からすれば遠い親戚の気持ちなのかもしれない。
あるいは、もしかしたらカネの無心をされるのではと心配してしまっているのではないかと指摘する人もいた。

 私も何度かそんな在日脱北者の相談を受け、親戚筋にコンタクトを取ったことがあったが、
確かにこれまで9割以上が会いたがらなかった。その会いたがらない気持ちと意味も十分理解できるのが、やはり悲しい。
同時に、そんな事情を在日脱北者も理解して、気持ちを飲んでくれることに、何とも言えない切なさを感じるのだ。

 彼らのために一つ言えることは、少なからず私を訪ねてくる在日脱北者は、ただ単に身内の安否を確認したいだけで、
おカネの無心で会いたいのとは違う。北朝鮮で暮らしていても、日本からの送金で命を繋げたことに感謝をし、
その感謝の言葉を一言言いたいだけなのだ。

・北朝鮮の「現実」
 彼らも日本に残った人たちが裕福でなかったことも重々承知している。
そんな切り詰めたおカネや物資を送ってくれた感謝を言えず、苦しんでいるのだ。

 そんな脱北者こそが、北朝鮮の真の現実と日本を一番理解しているのかもしれないと思う。

 私は、そういう方たちとずいぶん親しくしてきた。親しくなればなるほど、北朝鮮の現実も知らされた。

 そうした中で、今回の北朝鮮の「敵」発言をどう考えたらいいのか。
いま北朝鮮にまだ残っている在日の人たちは、何を思っているだろうか。そんなことを考えると、胸が締め付けられる。
同時に、北朝鮮についての正しい「現実」を伝えることの重要さを痛感するのだ。

豊 璋(在韓国コンサルタント)
1/24(水) 7:33配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/f4403518a4046b54a511bd4a2b97013d6999c0b1