その日、酒井の肛門は閉じられていた。

往年の不遜とネットからのバッシングが祟り、酒井の内外からの激しいストレスで酒井の精神は限界に達したのだ。
木村を筆頭に社内のスタッフ総がかりで酒井のストレス発散に勤しみ、遂には肛門性行にまで至ったが遂に酒井の心は戻らなかった。
肛門がぱっくりと開いたままの酒井に、スタッフ達が懇願しながら毎日のように挿入を試みたが、酒井の顔は不遜の色を崩さずなんの反応のない日々が続いた。

「戻れ、戻ってくれ・・・」

あれからと言うもの、いの一番に出社しては酒井に挿入するのは木村だった。
だがそう言った努力も虚しく、酒井の肛門が白濁の粘液に包まれひどくふやけて異臭を放つだけの日々。
食事も睡眠も摂ることもなく、今や酒井の命を繋ぎ止めるのは男達の遺伝子を含んだタンパク質のみであった。
髪の毛は抜け落ち、痩せ衰えた無惨な酒井の肢体は独特の色香を放つ。
木村はその日、はたと気がついた。
吉岡も濱崎も、そしてチームから去った菅沼でさえ、
誰一人として酒井の回復ではなく、その快楽で満ち満ちたトロマン肉壺を欲望で貪っている事に、

「さかいさぁん・・・さかいさぁん・・・」

その中年男の肉体は今や、禁止薬物の如く人々を魅了し堕落させる悪魔の肉壺となっていた。
そして木村自身も酒井の肉壺無しでは生きてゆけぬ体と成り果て、ついには会議と実務以外の時間は皆、酒井の肉壺を求めて殺到していた。
当然、その恐ろしい魔力で満ちた中年の肉体を求める者はSEGA社内だけでは止まらず、
アジアはおろか主要な先進国、中南米や果ては南アフリカからでさえも酒井の肉体を求めてこぞって集結した。
今や酒井の肉壺を再現した人造トロマンでさえ、ほとんど入手する機会が無いが無いほどに、人類は酒井を求めていた。

幾重にも拘束具を嵌められ、さらにコムラッピーの着ぐるみの中に厳重に封印された酒井を、1人静かに見下ろす木村。

「これで良かったのかトロマン、これがお前の言ってた優しい世界か? これがお前の求めていた人気者ってやつか? 」

厚さ1mの強化ガラスの壁に隔てられ、木村の声は決して酒井には届かない。
木村は酒井に背を向け、ガラスに身を預ける。

「良かったよなぁ・・・昔は、お前と一緒に暴れてよ、辛いこともあったが楽しかったぜ」

酒井の瞳は虚ろで中空を眺めるばかり、その瞳に映るものは無い。

「もう一度おまえに会いたかったよ、これは嘘じゃない。でも、そう言うやつは腐るほど見てきた、ほんとはお前の身体目当ての癖してな」

木村はかつて酒井と共に開発していたゲームの、今ではもう産業廃棄物と化した骨董品を取り出した。

「だからよ、今日はそれを証明しに・・・んで、それから・・・」

尖ってて、光ってて、はみ出ていると評されたそれは、害虫のような容貌を怪しく光らせる。
木村はそれをガラスに投げつけた。
けたたましい警報と共に、自立稼働する小銃達が木村に向けられる。
木村はこれまた懐かしい、酒井と共に構えた黒塗りの大砲を取り出す。

「お別れに来たんだよ」

自らその銃口を己の顔に向け、

「かっこいいだろ?」

木村という存在は永遠にこの世から消え去った。


翌日、酒井の肉体は精密検査のために封印を解かれた、
だが世界は驚愕の事実を知る事になる。

その日、酒井の肛門は閉じられていた。