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煙草にアンパンマンを印刷したら喫煙率下がるだろ [無断転載禁止]©2ch.net
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0001774mgさん垢版2016/03/27(日) 19:38:41.61ID:oq1nxI/1
なんでやらないのか謎
0017774mgさん垢版2018/02/21(水) 10:59:31.45ID:SzOvQqZ7
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11HOY
0018774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:00:06.18ID:uwhjXa2E
新公は半ば嘲るやうに、又半ば訝るやうに、彼女の顔を眺めたなり、やつと短銃の先を下げた。
0019774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:00:22.39ID:uwhjXa2E
と同時にお富の顔には、ほつとした色が浮んで来た。
0020774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:00:38.15ID:uwhjXa2E
「ぢや猫は助けてやらう。
0021774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:00:53.93ID:uwhjXa2E
新公は横柄に云ひ放つた。
0022774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:01:09.58ID:uwhjXa2E
「その代りお前さんの体を借りるぜ。」
0023774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:01:25.36ID:uwhjXa2E
お富はちよいと目を外らせた。
0024774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:01:41.01ID:uwhjXa2E
一瞬間彼女の心の中には、憎しみ、怒り、嫌悪、悲哀、その外いろいろの感情がごつたに燃え立つて来たらしかつた。
0025774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:01:56.76ID:uwhjXa2E
新公はさう云ふ彼女の変化に注意深い目を配りながら、横歩きに彼女の後ろへ廻ると茶の間の障子を明け放つた。
0026774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:02:12.40ID:uwhjXa2E
茶の間は台所に比べれば、勿論一層薄暗かつた。
0027774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:02:28.15ID:uwhjXa2E
が、立ち退いた跡と云ふ条、取り残した茶箪笥や長火鉢は、その中にもはつきり見る事が出来た。
0028774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:02:43.90ID:uwhjXa2E
新公は其処に佇んだ儘、かすかに汗ばんでゐるらしい、お富の襟もとへ目を落した。
0029774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:02:59.63ID:uwhjXa2E
するとそれを感じたのか、お富は体を捻るやうに、後ろにゐる新公の顔を見上げた。
0030774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:03:15.39ID:uwhjXa2E
彼女の顔にはもう何時の間にか、さつきと少しも変らない、活き活きした色が返つてゐた。
0031774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:03:31.15ID:uwhjXa2E
しかし新公は狼狽したやうに、妙な瞬きを一つしながら、いきなり又猫へ短銃を向けた。
0032774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:03:46.92ID:uwhjXa2E
いけないつてば。――」
0033774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:04:03.09ID:uwhjXa2E
お富は彼を止めると同時に、手の中の剃刀を板の間へ落した。
0034774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:04:18.84ID:uwhjXa2E
「いけなけりやあすこへお行きなさいな。」
0035774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:04:34.52ID:uwhjXa2E
新公は薄笑ひを浮べてゐた。
0036774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:04:50.16ID:uwhjXa2E
お富は忌々しさうに呟いた。
0037774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:05:05.94ID:uwhjXa2E
が、突然立ち上ると、ふて腐れた女のするやうに、さつさと茶の間へはひつて行つた。
0038774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:05:21.64ID:uwhjXa2E
新公は彼女の諦めの好いのに、多少驚いた容子だつた。
0039774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:05:37.35ID:uwhjXa2E
雨はもうその時には、ずつと音をかすめてゐた。
0040774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:05:53.12ID:uwhjXa2E
おまけに雲の間には、夕日の光でもさし出したのか、薄暗かつた台所も、だんだん明るさを加へて行つた。
0041774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:06:08.77ID:uwhjXa2E
新公はその中に佇みながら、茶の間のけはひに聞き入つてゐた。
0042774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:06:24.55ID:uwhjXa2E
小倉の帯の解かれる音、畳の上へ寝たらしい音。――
0043774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:06:40.31ID:uwhjXa2E
それぎり茶の間はしんとしてしまつた。
0044774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:06:56.07ID:uwhjXa2E
新公はちよいとためらつた後、薄明るい茶の間へ足を入れた。
0045774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:07:11.71ID:uwhjXa2E
茶の間のまん中にはお富が一人、袖に顔を蔽つた儘、ぢつと仰向けに横たはつてゐた。
0046774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:07:27.48ID:uwhjXa2E
新公はその姿を見るが早いか、逃げるやうに台所へ引き返した。
0047774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:07:43.13ID:uwhjXa2E
彼の顔には形容の出来ない、妙な表情が漲つてゐた。
0048774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:07:58.78ID:uwhjXa2E
それは嫌悪のやうにも見えれば、恥ぢたやうにも見える色だつた。
0049774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:08:14.58ID:uwhjXa2E
彼は板の間へ出たと思ふと、まだ茶の間へ背を向けたなり、突然苦しさうに笑ひ出した。
0050774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:08:30.35ID:uwhjXa2E
もうこつちへ出て来ておくんなさい。……」
0051774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:08:46.11ID:uwhjXa2E
何分かの後、懐に猫を入れたお富は、もう傘を片手にしながら、破れ筵を敷いた新公と、気軽に何か話してゐた。
0052774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:09:02.36ID:uwhjXa2E
わたしは少しお前さんに、訊きたい事があるんですがね。――」
0053774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:09:18.15ID:uwhjXa2E
新公はまだ間が悪さうに、お富の顔を見ないやうにしてゐた。
0054774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:09:33.79ID:uwhjXa2E
「何をつて事もないんですがね。――
0055774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:09:49.57ID:uwhjXa2E
まあ肌身を任せると云へば、女の一生ぢや大変な事だ。
0056774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:10:05.34ID:uwhjXa2E
それをお富さん、お前さんは、その猫の命と懸け替に、――
0057774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:10:21.11ID:uwhjXa2E
こいつはどうもお前さんにしちや、乱暴すぎるぢやありませんか?」
0058774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:10:36.91ID:uwhjXa2E
新公はちよいと口を噤んだ。
0059774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:10:52.58ID:uwhjXa2E
がお富は頬笑んだぎり、懐の猫を劬つてゐた。
0060774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:11:08.61ID:uwhjXa2E
「そんなにその猫が可愛いんですかい?」
0061774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:11:24.25ID:uwhjXa2E
「そりや三毛も可愛いしね。――」
0062774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:11:39.94ID:uwhjXa2E
お富は煮え切らない返事をした。
0063774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:11:55.94ID:uwhjXa2E
「それとも又お前さんは、近所でも評判の主人思ひだ。
0064774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:12:11.55ID:uwhjXa2E
三毛が殺されたとなつた日にや、この家の上さんに申し訣がない。――
0065774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:12:27.22ID:uwhjXa2E
と云ふ心配でもあつたんですかい?」
0066774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:12:42.87ID:uwhjXa2E
「ああ、三毛も可愛いしね。
0067774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:12:58.63ID:uwhjXa2E
お上さんも大事にや違ひないんだよ。
0068774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:13:14.39ID:uwhjXa2E
けれどもただわたしはね。――」
0069774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:13:30.02ID:uwhjXa2E
お富は小首を傾けながら、遠い所でも見るやうな目をした。
0070774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:13:45.69ID:uwhjXa2E
「何と云へば好いんだらう?
0071774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:14:01.44ID:uwhjXa2E
唯あの時はああしないと、何だかすまない気がしたのさ。」
0072774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:14:17.20ID:uwhjXa2E
更に又何分かの後、一人になつた新公は、古湯帷子の膝を抱いた儘、ぼんやり台所に坐つてゐた。
0073774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:14:32.84ID:uwhjXa2E
暮色は疎らな雨の音の中に、だんだん此処へも迫つて来た。
0074774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:14:48.64ID:uwhjXa2E
引き窓の綱、流し元の水瓶、――
0075774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:15:04.40ID:uwhjXa2E
そんな物も一つづつ見えなくなつた。
0076774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:15:20.13ID:uwhjXa2E
と思ふと上野の鐘が、一杵づつ雨雲にこもりながら、重苦しい音を拡げ始めた。
0077774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:15:35.77ID:uwhjXa2E
新公はその音に驚いたやうに、ひつそりしたあたりを見廻した。
0078774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:15:51.56ID:uwhjXa2E
それから手さぐりに流し元へ下りると、柄杓になみなみと水を酌んだ。
0079774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:16:07.31ID:uwhjXa2E
「村上新三郎源の繁光、今日だけは一本やられたな。」
0080774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:16:23.06ID:uwhjXa2E
彼はさう呟きざま、うまさうに黄昏の水を飲んだ。……
0081774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:16:38.70ID:uwhjXa2E
明治二十三年三月二十六日、お富は夫や三人の子供と、上野の広小路を歩いてゐた。
0082774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:16:54.48ID:uwhjXa2E
その日は丁度竹の台に、第三回内国博覧会の開会式が催される当日だつた。
0083774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:17:10.24ID:uwhjXa2E
おまけに桜も黒門のあたりは、もう大抵開いてゐた。
0084774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:17:26.01ID:uwhjXa2E
だから広小路の人通りは、殆ど押し返さないばかりだつた。
0085774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:17:41.79ID:uwhjXa2E
其処へ上野の方からは、開会式の帰りらしい馬車や人力車の行列が、しつきりなしに流れて来た。
0086774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:17:57.45ID:uwhjXa2E
前田正名、田口卯吉、渋沢栄一、辻新次、岡倉覚三、下条正雄――
0087774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:18:13.22ID:uwhjXa2E
その馬車や人力車の客には、さう云ふ人々も交つてゐた。
0088774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:18:28.94ID:uwhjXa2E
五つになる次男を抱いた夫は、袂に長男を縋らせた儘、目まぐるしい往来の人通りをよけよけ、時々ちよいと心配さうに、後ろのお富を振り返つた。
0089774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:18:44.61ID:uwhjXa2E
お富は長女の手をひきながら、その度に晴れやかな微笑を見せた。
0090774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:19:00.30ID:uwhjXa2E
勿論二十年の歳月は、彼女にも老を齎してゐた。
0091774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:19:16.09ID:uwhjXa2E
しかし目の中に冴えた光は昔と余り変らなかつた。
0092774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:19:31.86ID:uwhjXa2E
彼女は明治四五年頃に、古河屋政兵衛の甥に当る、今の夫と結婚した。
0093774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:19:47.70ID:uwhjXa2E
夫はその頃は横浜に、今は銀座の何丁目かに、小さい時計屋の店を出してゐた。……
0094774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:20:03.36ID:uwhjXa2E
お富はふと目を挙げた。
0095774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:20:19.16ID:uwhjXa2E
その時丁度さしかかつた、二頭立ちの馬車の中には、新公が悠々と坐つてゐた。
0096774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:20:34.82ID:uwhjXa2E
尤も今の新公の体は、駝鳥の羽根の前立だの、厳めしい金モオルの飾緒だの、大小幾つかの勲章だの、いろいろの名誉の標章に埋まつてゐるやうなものだつた。
0097774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:20:50.47ID:uwhjXa2E
しかし半白の髯の間に、こちらを見てゐる赭ら顔は、往年の乞食に違ひなかつた。
0098774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:21:06.27ID:uwhjXa2E
お富は思はず足を緩めた。
0099774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:21:22.02ID:uwhjXa2E
が、不思議にも驚かなかつた。
0100774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:21:37.78ID:uwhjXa2E
新公は唯の乞食ではない。――
0101774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:21:53.44ID:uwhjXa2E
そんな事はなぜかわかつてゐた。
0102774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:22:09.26ID:uwhjXa2E
顔のせゐか、言葉のせゐか、それとも持つてゐた短銃のせゐか、兎に角わかつてはゐたのだつた。
0103774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:22:25.07ID:uwhjXa2E
お富は眉も動かさずに、ぢつと新公の顔を眺めた。
0104774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:22:40.72ID:uwhjXa2E
新公も故意か偶然か、彼女の顔を見守つてゐた。
0105774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:22:56.48ID:uwhjXa2E
二十年以前の雨の日の記憶は、この瞬間お富の心に、切ない程はつきり浮んで来た。
0106774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:23:12.25ID:uwhjXa2E
彼女はあの日無分別にも、一匹の猫を救ふ為に、新公に体を任さうとした。
0107774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:23:27.90ID:uwhjXa2E
その動機は何だつたか、――
0108774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:23:43.64ID:uwhjXa2E
彼女はそれを知らなかつた。
0109774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:23:59.43ID:uwhjXa2E
新公は亦さう云ふ羽目にも、彼女が投げ出した体には、指さへ触れる事を肯じなかつた。
0110774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:24:15.19ID:uwhjXa2E
その動機は何だつたか、――
0111774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:24:30.84ID:uwhjXa2E
それも彼女は知らなかつた。
0112774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:24:46.62ID:uwhjXa2E
が、知らないのにも関らず、それらは皆お富には、当然すぎる程当然だつた。
0113774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:25:02.40ID:uwhjXa2E
彼女は馬車とすれ違ひながら、何か心の伸びるやうな気がした。
0114774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:25:18.19ID:uwhjXa2E
新公の馬車の通り過ぎた時、夫は人ごみの間から、又お富を振り返つた。
0115774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:25:34.26ID:uwhjXa2E
彼女はやはりその顔を見ると、何事もないやうに頬笑んで見せた。
0116774mgさん垢版2018/03/11(日) 02:25:49.92ID:uwhjXa2E
活き活きと、嬉しさうに。……
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