夏目漱石「韓満所感」(抜粋)

「昨夜久し振りに寸閑を偸んで満洲日日へ何か消息を書かうと思ひ立つて、
筆を執りながら二三行認め出すと、伊藤公が哈爾浜で狙撃されたと云ふ号外が来た。
哈爾浜は余がつい先達て見物に行つた所で、公の狙撃されたと云ふプラツトフオーム
は、現に一ケ月前に余の靴の裏を押し付けた所だから、希有の兇変と云ふ事実
以外に、場所の連想からくる強い刺激を頭に受けた」

「満韓を経過して第一に得た楽天観は在外の日本人がみな元気よく働いてゐると云ふ
事であつた」