すみません、うまくまとめられなくて長くなってしまいました。

この原作は非常に周到に構成されているので、例えば人がすずの髪をいじるシーンを追うだけで、すずの今の状況がわかるようになっています。

すずは元々、スキンシップに満ちた暮らしをしていたのに、嫁入りとともにそれが無くなってしまいます。
里帰りで、すみが早速、以前のようにすずの髪をいじると禿げが見つかるのは、慣れない境遇のすずの悩みだけでなく、身の回りにそういう近い関係の人がいないことを示しています。
それ以降、すずの髪をいじる人はずっといません。人の世話をする立場ではあっても、される立場ではないのです。幼い晴美が墨を塗ろうとしてくれるくらいですねw

その関係は、すずが空襲で右手を失うことで大きく変わります。サンがすずの髪をいじることは、すずが逆に世話をされる側になってしまったことをよく表しています。
すずはそのことにさんざん悩みますが、径子に「すずさんの居場所はここじゃ」と言われることで救われ、すずは「北條家の嫁さん」の義務を果たす存在から、北條家を自分の意志で自分の居場所と決める存在に変わります。
径子がこの時すずの髪をいじっているのは大変重要です。これは単なる世話ではなく、径子がすみと同じくらい すずに近い存在になったことを示すからです。

こういう演出は普通、読者や視聴者には見飛ばされますが、もし櫛がそれぞれのシーンごとに象徴的に登場していたなら、同じ櫛を持つ人がすみ→サン→径子と変わっていくことで、誰にでもはっきり感じ取れるようになっていたと思うんですね。
そして最後、すずが節子の髪を櫛ですくシーンがあれば、この櫛を巡る物語はきれいな締めくくりを迎えたでしょう。