インド進出を狙う東条やパッパラー寺内に忖度し、失敗しても作戦を止められなかった上司の河辺正三や、作戦を承認した上級司令部も確かに罪は重い。だからといって愚将牟田口の罪は軽くなるのか。そもそも牟田口が大本営に強く働きかけて実施された作戦である。著者も言う「弱気を嫌う」人格だからこそ起こされた作戦だと思う。

愚将牟田口は英軍を侮っていたのではないか。緒戦のマレー・ビルマで簡単に勝ったために「英軍は力で押せば退く」と誤って学習した。インパールは日本軍が敗勢となってから自身初の大作戦で、かつ自身で戦場指揮をしないために現場を知らず、「押せば退く」虚像の英軍が捨てられない。緒戦では1か月で1000キロ進んでも補給は追いついた。だから補給を言い訳に攻め抜けないのは部下が強気で押さないからと愚将牟田口は理解した。なまじ過去に劇的な成功を経験したために現状を認められない心理があった