この数週間、中国でハイテク企業に対する規制強化が急に目立ってきた。

その第1は、アントの上場停止だ。電子マネー「アリペイ」の発行者アントは、

香港と上海市場に上場するはずだった。その企業価値は約1500億ドル(約16兆円)程度だと。

これは、米シティグループ(約11.5兆円)の時価総額を超え、

三菱UFJフィナンシャル・グループなど日本の3メガ銀行の時価総額の

合計(13.3兆円)を上回るものだ。上場による資金調達額は345億ドル(約3.6兆円)とされていた。

これは、みずほフィナンシャルグループの時価総額に並ぶ規模だ。

アントの企業価値がこのように大きくなるのは、「決済サービスを無料にし、
そこから得られるデータを活用して収益を上げる」という新しいビジネスモデルを確立したからだ。

この基礎にあるのは、「芝麻(じーま)信用」という信用スコアリングだ。

アリペイの取引データから、人工知能(AI)が利用者の決済履歴や、
事業者の資金使途などを解析して、信用力を評価する。

ところが中国当局は、上場直前の11月3日に、アント上場に待ったをかけた。

アント上場の中止は、ジャック・マー(アントの親会社であるアリババ集団の創始者)の
当局批判に対して、習近平が激怒したからだと言われる。

それによって、一瞬のうちに3.6兆円が吹き飛んでしまったのだ。

アントでさえ、共産党の鼻息を伺わなければならないとなれば、中国の能力がある若者は萎縮する。
長期的には、この出来事は、中国IT産業衰退の始まりになるだろう。