数日後、「突然いなくなっちゃいましたんで、別の猫、もらえませんか?」などと、
軽い調子で電話がかかってくることも少なくありませんでした。予防接種の予約をしたはずなのに
予約の日時に現れない。不妊手術の時期になっても、手術を受けに訪れないということもよくありました。
そんな人が増えたことで、適正に飼育されている可能性が極めて低い現実に気付いたのです。
「もらわれた先で幸せになっていないかもしれない」という思いが、
捨て猫の委託方法を転換するきっかけになりました。「もらっていただく」方針を変えたのです。
捨て猫や捨て犬の飼育を希望する人から、一律に料金をもらうことにしました。
簡単にいえば、買っていただくことに決めたのです。最初は抵抗がありました。
「捨て猫にどうしてお金がいるのか」「そうまでして金もうけしたいのか」などとやゆする人もいました。
それでも方針は変えませんでした。この方針は見事に的中しました。予防接種から定期健診、不妊相談まで、
ほとんどの飼い主が定期的に病院を訪れるようになりました。「お金を払った」という事実が、
結果的に捨て猫や捨て犬の命の質を引き上げたのです。「お金なんかで…」と思わないでください。
ペットの健康管理にお金を支払ったり、餌や首輪など飼育に必要な物を買ったりしているうちに、
「この子のために何かをしたい」という愛情や責任が育っていくのです。
小さな命を守り育てていくために必要なことは数多くあり、
そのための飼い主の覚悟は厳しいものなのです。(竜之介動物病院長、熊本市)
※この記事は2016/11/03付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。