憧れの松本で一旗揚げるため

一生金沢みたいな辺境で陽の目を見ないままと
松本様の草履取りになり

松本さまが座敷に上がっているあいだ、草履取り金沢は主人の草履を二枚裏合わせにして、腰に差すか、懐にしまって控室で待機している。

そして、玄関で「誰々の草履取り」と呼ばれると、玄関の式台から1mほど離れた所から、松本さまが降りる足元へ草履を投げ揃えた。

草履が上手く揃わなければ、松本さまに恥をかかせる事になる。
そのため、草履取り金沢は日頃から草履投げの練習を欠かさなかったのであった。


ある冬に松本さまが外出しようとして下駄を履くと、冷たいはずがなんと下駄が温かい。

金沢百姓が松本さまを待っている間、下駄の上に座っていたに違いないと考えた松本さまは怒り、もっていた杖で金沢百姓をぶちました。

「座っていたな!この不届き者金沢百姓め!」と怒ると
「違います!背中に入れて温めていたのです!」

金沢百姓が上着を脱ぐと背中に下駄の後がくっきりと残っていた。