これは雑炊大当たり


岡田氏は、マティルダの「筋肉の柔らかさ」なるものに心を奪われ、
必ず手に入れることを心に誓った。
方針が決まれば、道も自ずから決まる。

「あんまりじっくり見ていると、値段が上がってしまうかもしれない」

そう心配した岡田氏は、そっけない顔をして、マティルダのそばをすぐに離れた。
セリ市では、ある人物が目をつけた、という事実のみで馬の価格が跳ね上がることは少なくない。
まして、「相馬の天才」と呼ばれる岡田氏ならばなおのことで、
彼はそれまでに、自分が見込んだ多くの馬の値段が予想以上に吊り上がり、
時には自分が諦めなければならなかった悔しい思いを何度も経験していた。

 ・・・しかし、その後もマティルダのことが気になる岡田氏は、
他の馬を見るふりをしながら、遠くからマティルダのことばかり見ていた。
ちなみに、マティルダが牧場で売れ残った原因となった脚の外向については、
岡田氏はもともと調教によってなんとでもなると思っていたため、気にもならなかったという。

 岡田氏の「偽装工作」が実ったか、いよいよセリが始まると、
岡田氏に競りかけてくる人は現れたものの、それほどしつこく絡まれることもなく、
お台が2000万円から始まったマティルダは、岡田氏が2150万円でせり落とすことに成功した。
こうしてマティルダ・・・後のマイネルマックスは、岡田氏のもとで競走馬としての道を歩むことに決まった。