最高時速が40キロ近くにまで達するトラック種目。佐藤友祈は風を突き破るように、前かがみで車いすを滑らせる。その姿は一本の矢のようだ。400、800、1500、5000メートルと、中長距離すべての世界記録を持つ。

 圧倒的な強さの源泉は、「ゾーン」に入れる集中力だという。

「緊張して震えることはあるが、スタートした瞬間から周りの音が遮断される。必要な情報だけがわかる感じでしょうか」

 相手がここにいて、自分はここ。だから、こう走る。

「自分を俯瞰で見ているというか、レースを真上から見ているみたいな感覚ですね。最初からできたかどうかは覚えていないけれど、自分の限界を超えてきたときにその状態に入りやすい気がする」と丁寧に言葉を紡ぐ。

 限界を超えてくる状況とは、自己新記録が出せなかったとしても「その時のベストではあるんです」。そんな100%の積み重ねと空間認知力が、この圧倒的な王者をつくりあげた。

 小さい時から、時間を忘れて集中するところがあった。趣味である囲碁もそうだ。盤を上から見下ろし陣地を争う時間のなかでも力を養ったのかもしれない。

「レーサー」と呼ばれる競技用の車いすを、一昨年新しいものに替えた。

「同じように作ったレーサーでも、乗り方によって変わってくる。レーサーと一体化していかないと」と距離を積む。

「世界記録を樹立しての金メダル獲得を、全種目で達成したい」と目を輝かせた。