■誰が世界を支配しているのか? (著)ノーム・チョムスキー

出版社からのコメント
全米のみならず、世界各国で「知識人必読の一冊」と絶賛された、“知の巨人"ノーム・チョムスキー邦訳最新刊。
刊行に合わせ「日本の読者の皆様へ」とメッセージも収録。
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◇第二三章  人類の支配者
「誰が世界を支配しているのか?」と問うとき、普通は一般的な通念を使う。
それは、国際情勢の当事者は国家、特に超大国だという見方である。
だから、私たちは超大国の決断や国家間の関係について考えをめぐらす。
それは間違いではない。だが、心しておくべきことがある。

このようにおおまかに捉えると、大きな誤解も生まれることだ。  
国家は当然ながら複雑な内部構造を持つ。 政治指導者がどんな選択や決断をするかは、内部の権力構造に大きく影響される。
一方、一般国民は無視されることが多い。これは民主主義社会でも起こるが、それ以外の社会では当然だ。

また、「誰が世界を支配しているのか?」を理解するには、アダム・スミスのいう「人類の支配者」を無視することができない。
彼の時代における人類の支配者とは、英国の貿易商や工場主だった。私たちの時代では、多国籍企業や巨大な金融機関、超巨大小売業者などだ。

アダム・スミスといえば、彼のいう「邪悪な処世訓」にも関心を向けるべきだ。
人類の支配者たちが信奉する、「すべては自分のもの、他者には何も与えない」という処世訓だ。
この信条は、過酷で絶え間ない階級闘争を生む。この闘いは一方的なことが多く、自国の国民だけでなく、世界の人々に大きな害をもたらす。

現在では、支配者たちの組織が絶大な権力を握っている。それは海外でも、国内でも変わらない。
彼らは国家に権力を守ってもらうだけでなく、経済支援も受けている。
人類の支配者たちが何をしているかを知りたければ、国家が優先している政策に目を向けるとよい。  
たとえばTPP(環太平洋パートナーシップ協定)だ。

これは本来、投資家の権利に関する協定だが、御用メディアや解説では「自由貿易協定」と不当に表示されている。
交渉は秘密裏に行なわれ、中身を知っているのは、細則を書く何百人もの企業弁護士やロビイストだけだ