ベトナム戦争に参戦した韓国軍は、ここフーイエン省を含むベトナム中部の沿岸部(国道1号線沿い)を中心に駐屯した。1965年10月、韓国軍は本格的に戦闘部隊の投入を開始した。

 間もなく、悲劇の幕が開く。ベトナム中部のいたる所で、「ゲリラ掃討」を名目に、韓国軍による民間人虐殺事件が起きたのだ。韓国軍が撤退する73年までの間、虐殺現場は広範囲にわたり、犠牲者の数は1万人近くに及ぶとされる。

 チェンさんは、韓国軍による虐殺を逃れ、生き延びた一人。その時の様子をこう証言した。 「市場を韓国軍が襲ったのは夕食をとった後の夜8時頃のこと。突然、辺りに銃声や叫び声がこだまし、怖くて家から出られなかった」

 市場に隣接する自宅の防空壕の中に、母と弟2人の家族4人で隠れていたという。翌朝7時頃、家を出て市場を訪れたチェンさんが見たのは、犬に食いちぎられて異臭を放つ夥しい数の死体だった。