◆30年同じキーで歌い続けるレジェンドの場合
 筆者の大好きな歌手の一人に、ボニー・レイット(69)という人がいます。
彼女も「I Can’t Make You Love Me」という代表曲(aikoで言う「カブトム
シ」ですね)を30年近く同じキーのまま歌い続けています。
 でも、そうするためにそのつど歌のペース配分を変えているのですね。

必ず高い音が出なければならない部分のために、力を温存している。当
然、メロディラインは変わってくるのですが、そこで経験と素養の積み重
ねが生きてくるわけです。声を抑えても聴き手を納得させるニュアンスの
付け方を追求する。
 メロディラインや声の張り方が違えば、当然歌詞が与える印象も変わっ
てきます。すると、キーやテンポを下げたり、楽器の編成をいじったりしなく
ても、立派なアレンジになる。そして何よりも大事なのは、最初の表現方
法が唯一無二の正解ではないということです。
 同じように、「カブトムシ」も時の流れに耐えうる楽曲なので、マイナーチ
ェンジを繰り返しながら、じっくりと深みを追求していけるはず。今回の紅白
が、そのきっかけになればいいと思いました。
<文/音楽批評・石黒隆之>