明菜がデビューした頃
私は商業ビッグバンドで4番テナーサックスを吹いていた。
まだ東京タワーの近くにテレビ東京があった頃、
シブがき隊が司会のレッツゴーアイドルと
あのねのねが司会をしていたやんやん歌うスタジオをレギュラーで伴奏していた。
早見優、堀ちえみ、などなど新しいタレントが出演する中、
私達プロにとって仕事だから贅沢は言えないが、
はっきり言って可愛いだけで歌の上手い娘は松居直美くらいだった。
多分あの娘は民謡か何かの実績があったのだろう。
いずれにせよ、
半分素人と変わりないレベルの可愛いタレントさんの伴奏は、
申し訳ないが音楽以前の仕事だった。・・・そんな中、
中森明菜はある行動をした。
まさに画期的な行動を・・・テレビの収録は一つの曲に対して3回、
音合せ、カメリハ、本番。と繰り返すのだが明菜はその本番以外の時、
耳に指を突っ込んで歌ったのである!!
これが何を意味するのかはステージに立った事のない人には理解しずらいであろう。
ようは、自分の声が全く聞こえないのだ。
そりゃそうだ
私達ビッグバンドはラッパ4本トロンボーン4本サックス5本が本気で音を出すのだ、
半端なボリュームのボーカルなんて自分の声が全く聞こえないのだ。
そこで明菜は自分の声が聴こえるように耳に指を突っ込んだのである。
30年以上前の話しだからPAの世界でモニターの重要性も軽視されていたのかもしれない。
少なくともテレビの収録で絵ズラより歌手のモニターを優先することは当時あまりなっかたように記憶している。
いずれにせよ明菜は自分が歌う声を確認しながら歌うという手法を手に入れた。
私は「ああ、この娘歌上手くなりたいんだ。」と思った。
そして明菜はどんどん歌唱力という歌手が本来持っているべき技術を身につけた。
私が明菜のファンになるのは当然だ。
その変化を毎週の仕事の中で見守っていたのだから・・・・
明菜にはひばりさんや、ちあきなおみさんのような稀有な歌い手としての実力がある、
だから、だからもっと私達の前で素晴らしい歌声を聞きたいと思うのは私だけでは無いと思う。