翌朝♂は下山し牧場を目指した。

いずれはこの山は牧場の所有地になることが決まっている。

ある程度開発された道により道中は楽だったが、かつて自分達が暮らしていた風景が無くなる様は、
野生タブンネには寂しさとなって現実を知らしめた。



牧場の放牧場。
一歳間近となったニク達がそれぞれのびのびと日光浴を楽しんでいる様子が見える。
ここまで近づけるのは普通はあり得ない。
黒ずんだワイヤーやトラバサミに付着したピンクの毛を含んだ肉片が♂に罠を示すよう揺れていた。
さらに今日は保険施設による免許更新日で主要なスタッフは出払い、わずかな作業員のみであったのが幸運だったかもしれない。

そんなことお構いなしに♂は身を隠すことも忘れ、見た目美しい同族に駆け寄り叫んだ。

「助けてくれミィ!ミィの奥さんが!!」
「あなたは誰ですか?知らない人とは話したり近づきたくないのでいなくなってください」
「なにしてるの?あ、「触角付き」だ!ダメだよいこう!」

返答は意外なものだった。
これもニクの教育で、自分達ニクと人間とそのポケモン以外には絶対関わらない。
残存する野生タブンネによる様々な過去の本能を刺激する要因を防ぐため。

「どうして仲良くしてくれないミィ?タブンネは優しいポケモンミィ!」
先日まで身内で争っておきながらこのような考えに至るのがタブンネである証拠だろう。
♂は柵を叩き必死に 同族 へ呼び掛けた。