父タブンネの全身はたちまち痣だらけになり、涙を流して『もう許して』と言いたげな悲鳴を上げる。
側では母タブンネが子タブンネを抱きしめて、ガタガタ震えていた。

俺は母と子に見せ付けるかのように、渾身の力を込めてバットを父タブンネの頭に叩きつけた。

一回。「ミギャアアーーーッ!!」
二回。「ギィィィィィィィ……!!!」
そして三回。「ゴバァッ…!!」

三回目で頭蓋骨が陥没し、血が吹き出した。全身をビクンと大きく痙攣させた父タブンネは動かなくなる。

「ミッヒィィーーー!!」「ミィィィィ!!」
その無残な姿に、母子は悲痛な声を上げて号泣する。しかし俺は容赦しない。
母タブンネに歩み寄ると、触覚をぐいっと引っ張った。
「ミヒッ!?」
「卵をよこせ。嫌だといったらこのガキを殺す。そいつよりもっと苦しめてもっと酷いやり方でな」

直接触覚を握って感情を伝えた母親はもちろんのこと、子タブンネにも俺の心が伝わったようだ。
2匹とも真っ青になって、何かの発作でも起きたかのように全身がガタガタ震えている。
母タブンネは滝のような涙を流し、迷っていたようだったが、もはや選択の余地などないことに気づいたようだ。
「ミ、ミィィ……」
震える手で俺に卵を差し出した。俺はニッコリ笑ってそれを受け取る。
卵さえ手に入れば無益な殺生をする気はない。俺はバットの血を、父タブンネの死体の毛皮で拭き取った。
「じゃあな、新しいパパでも見つけて、また卵を産みな」
卵をそっと抱え、立ち去る俺の背中のほうから、泣き声が聞こえてきた。
「ミィィィィ…!」「ミィッ、ミィッ…」
だが俺の心は晴れやかだった。

車に戻った俺は、卵が割れないようバスタオルでくるんで、助手席にそっと置いた。
エンジンをかけ、発車させる。相変わらずいい天気だ。気持ちがいい。
この卵からどんな赤ちゃんが生まれるかと思うと、自然に頬が緩む。

俺は卵が割れたりしないよう、安全運転で車を走らせる。
「一日でも長く赤ちゃんでいてくれよ」などと無理な願いを心の中で呟きながら。

(終わり)