東叩き棒は小多村(おたむら)に伝わる伝統工芸の一つである。伝承によれば、室町時代に「ずん」と呼ばれる酒飲み妖怪が村を襲ったことがあり、
一人の村の勇敢な若者が棒を手に戦ったところ、「ずん」は東の方角へと逃げたという。その出来事から村では毎年、東の方角を向いて「ずん」と
「ずん」が従える悪魔の女の像を目掛けて棒で叩く「終魂(おわこん)祈願祭」という行事が行われ、今では日本四大奇祭に数えられるようになった。

東安置(ひがしやすおき)さんは棒を作り続けて十年という若手職人。彼が作る棒は周囲とは一味違い、その時その時の流行を取り入れた素材を
利用しているため最近になって美術品としての評価が高まっている。

中でも安置さんが自信作として取り上げたのは2011年製の「魔法少女まどか☆マギカ」に出てくるキャラクター巴マミのマスケット銃を象った棒と、
2013年に流行したブラウザゲーム「艦隊これくしょん」にヒントを得て軍艦の主砲を象った棒である。2013年製は大ヒットをして今でも売れているとのことだ。

「『ずん』は流行りモノが嫌いな妖怪と聞いていますのでこれからもどんどん流行を取り入れていきますが、今年は伝統的なものにも力を入れたいと思います」

安置さんはそう語る。棒には一つ問題があった。祭で参加者があまりにも思い切り像を叩くためにすぐ折れてしまうのである。どうにかできないかと相談を持ちかけられた安置さんはまず、儚月山の木から作られた棒に着目した。昔はここから素材を調達しており、二十年使い続けても折れず現存しているのが多くあったためである。
だが儚月山は「ずん」のねぐらとされている山であるため、いつしか職人が足を踏み入れなくなった。安置さんは大学と協力して儚月山の木を調査研究し、その結果、通常よりも硬くて棒を作るのに一番適している素材だと判明した。安置さんは今年、タブーを破って儚月山の木の棒を作ろうと試みている。その形はシンプルだが、安置さん曰く易者の筮竹をイメージしているという。

「『ずん』が生み出した悪魔の女が村の易者を殺したという伝承がありまして、易者の恨みを晴らすという意味で作りました」

棒はすでに予約注文が殺到している。夏の終魂祈願祭では易者の筮竹棒が「ずん」を倒す光景が見られるだろう。(文責:安里雷音)