膠着状態のなか、一匹がついに行動をおこした。ホウレンソウを握り締めたまま野菜室から飛び出すと、俺の足元をすり抜けて、侵入してきたであろう割れた窓ガラスの方向へ転がるように走り出す。
もう一匹は野菜室の中でホウレンソウを握り締めあたふたとしている。示し合わせた行動というわけではないようだ。
俺はゴルフクラブを放り、逃げようとした一匹の尻尾を、そして野菜室の中の一匹の触覚を掴み逃亡を阻止する。

(ここより便宜上逃げ出そうとしたほうを一号、もう一匹を二号と記載します)
俺はというと今だあっけにとられ、とりあえず捕まえた二匹を顔の高さまで吊り上げてみた。尻尾を掴まれた一号、触覚を掴まれた二号、どちらも相当敏感な部位らしく、ミキャアミキャアと子供特有の甲高い声で騒ぎながら、手足をばたつかせている。
突如「プッ」という音が聞こえたかと思うと、一号の尻から緩い便が飛び出し、俺の足の甲に落下した。靴下越しにほのかな温かみを感じる。
おそらく興奮の余り脱糞してしまったというところだろうが、俺はこの行為に激しく激昂した。

「こらぁ!」
俺は怒りに身を任せ二匹に激しく声をあびせる。ミキャアミキャアと騒いでいた二匹はビクッとし、手足をばたつかせるのをやめた。その引き換えに、二匹は痙攣したように震えだす。
するとまたもや足付近に湿った温もりを感じ始めた。どうやら今度は二号が、恐怖のためか失禁してしまったようだ。もはや俺の足は二匹の汚物にまみれてしまっている。

汚物が熱を失い、足元がひんやりとしてくると、俺はわずかに冷静さを取り戻しつつあった。俺は二匹を持ち上げたまま部屋を見渡す。
割れた窓ガラス、泥だらけのリビング、汚物にまみれた台所。
一日の就業を終え、肉体を行使し、上司や同僚の理不尽に耐え精神をすり減らした体を癒す空間を、この侵入者どもが蹂躙した。

俺の生活に、俺の心に余裕があれば、俺はこの可愛い侵入者をなんのことなく外へ逃がしてやっただろう。あるいは大家に隠れて飼ったかもしれない。
だが悲しいかな、俺の顔の前で宙ぶらりんになりプルプルと震えているこの幼いタブンネ二匹が、俺には憎悪の対象としてしか写らなかった。

俺は足を器用に動かし、足の甲に乗った一号の便を二号の尿だまりの上に移動させ、その上に一号を叩き付けた。