「ミィ!ミィミィ!」
ママンネが何かを訴えている。
大方察しはつく。
だがその要求を呑む気は全くおきない。
それどころか僕は不思議な感情に包まれた。
こいつらをメチャクチャにしてやりたいと。

タブンネ達が知性の欠片も感じさせない獣であれば僕は何も感じなかっただろう。
しかしタブンネは人の言葉を理解出来、そして何より人間の様に感情表現が豊かだ。
恐怖に震えるタブンネの顔が僕に未知の興奮を与えた。


もっと、もっと!こいつらの顔を絶望に染め上げたい!
その想いが増すとともに自然と笑みが込み上げてきた。

だがその笑みはタブンネ達の表情から察するにさぞかし悪意のある笑みだったのだろう。
反比例の関係の様に僕とタブンネの表情は変化していく。

「この子を返して欲しかったらお前らの棲みかへ案内しろ。」
ママンネは恐怖にプルプル震えながらも小さくコクッと頭を下げた。
両脇のベビンネ達はママンネの手を力一杯握り締めて瞳に涙を溜めていた。
二匹ともママンネ同様恐怖で震え歯をガチガチ鳴らしていた。


僕に掴まれているベビンネは興奮して暴れていたので一先ずバッグの中に閉じ込めた。
必死に出ようとモゴモゴ動いているが無視しておく。
ママンネは棲みかを案内した。
押入れの奥に屋根裏に繋がる小さな穴があった。
あまり掃除をしてなかったので全然気付かなかった。今後は気を付けねば。

懐中電灯で屋根裏を照らすと無くしたと思っていた複数のタオルが見つかった。毛布代わりに使っていたと見える。他にも沢山の食べかすが散乱していた。

さらに奥に、ふと白い物が見えるとママンネが咄嗟に隠そうとした。余程大事な物らしい。


「今隠そうとした物を見せろ。さっきの子が死ぬことになるぞ?」
その言葉にママンネはミィ・・・と涙声をあげながら白い物を僕に差し出した。

それは尻尾だった。
大きさからして大人のタブンネのもの。
親の形見という訳か。
「これは少し預かる。なに、すぐに返すよ。」
ママンネが両手を伸ばし「返して!」とアピールするが無視。


僕は散らかったままの台所に戻った。
タブンネ達の食べかすの他に糞尿が撒き散らされている。