世界どの国の新聞にも政治を題材とした「風刺漫画」が掲載されている。

 数多(あまた)ある中でも英国メディアのそれは、漫画の質の高さと辛口のキャプションが断トツである。

 直近の英紙フィナンシャル・タイムズ(4月29・30日付)掲載分が抜群だった。

 作者のイングラム・ピン氏は、10年以上見てきた各紙の風刺漫画の中ではピカイチと言っていい。

 さて、描かれているのはドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。両首脳の変わったヘアスタイルは特に有名だ。

 地毛であってカツラではないが、トランプ氏のそれは後ろ髪が極めて長くスーツの襟にかかり、左右のもみ上げをヘアクリームで固めている。一昔前のリーゼント・スタイルだ。

 一方の正恩氏は、祖父の金日成(キム・イルソン)主席をまねて耳から上を刈り上げて、頂の毛髪を固形クリームで直立させている。少しでも背を高く見せたいのだろう。父の金正日(キム・ジョンイル)総書記がハイヒール靴を好んだように。

 件の風刺漫画では、正恩氏の逆立った頭髪から、まさに弾道ミサイルが発射された。トランプ氏のロングヘアは大陸間弾道ミサイル(ICBM)風にセットされていて、今にも迎撃・発射せんばかりだ。

 キャプションにはただ一言、「HAIR TRIGGERS」とある。

 英語で「一触即発」という意味である。米朝軍事衝突か!と、この風刺漫画は現下の朝鮮半島情勢を表しているのだ。

 では、「米朝衝突」にリアリティーがあるのか。残念ながら、イエスと言わざるを得ない。

 約17カ月間も拘束され、6月13日に昏睡(こんすい)状態で解放された米国人学生、オットー・ワームビア氏が帰国後すぐに亡くなった。「拷問死」の可能性が取り沙汰されている。

 それまでのトランプ政権の対北朝鮮政策は硬軟使い分けの「ダブルトラック」路線だった。

 レックス・ティラーソン国務長官は5月18日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使として訪米した洪錫●(=火へんに玄)(ホン・ソクヒョン)前中央日報会長に対し、「北朝鮮の正恩体制転換は求めない。私の経済界の友人たちは北朝鮮の豊富な天然資源開発に興味を持っている」と語った。

 だが、ジェームズ・マティス国防長官は6月13日の米上院軍事委員会で「北朝鮮攻撃の準備はすでに完了している」と証言した。

 正恩氏が「レッドライン」を越えるとすれば、人民軍戦略軍創建記念日の7月3日から朝鮮戦争休戦協定日の26日の間だ。「今そこにある危機」は間近に迫っているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170704/soc1707040019-n1.html
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金正恩氏は「レッドライン」を越えるのか(AP)