怪談としか言いようのない2つの事態が、日露関係に生じている。この2つの問題は日本側の上滑りの対露政策の本質を、痛いほど突いている。

≪共同経済活動は新たなハードル≫

 怪談1…昨年12月プーチン大統領が訪日したが、彼が強調したのは経済協力のみで、「領土問題を解決して平和条約締結」の話し合いは、むしろ後退した。かつて露側が求めた四島での共同経済活動を、昨年5月に安倍晋三首相の側から提案。12月の首脳会談では、平和条約への第一歩として「特別な制度の下で行う」ことに合意したと首相は発表した。筆者は、露側は共同経済活動は露の法律下で行うのが基本原則で、この面でプーチン氏は譲歩しないと述べてきた。「怪談」の根はここにある。

 今年4月の日露首脳会談で、「島への官民調査団を5月中にも派遣」と合意し、結局調査団は7月1日までの5日間派遣された。日本政府に衝撃だったのは、直後の7月6日に、トルトネフ副首相が「四島に新型経済特区創設を決定した」と発表したことだ。もちろん露法律下で実施される。

彼は極東連邦管区大統領全権代表でもあり、その決定はプーチン氏自身の決定だ。露国営メディアは「南クリル(北方四島)での日本との共同経済活動計画に終止符か?」と報じた(『SPUTNIK』日本語版 2017年7月7日)。奇怪なのは7月8日の日本政府の良いことずくめの発表だ。

 「6月末に派遣された官民調査団による現地調査が極めて有意義であり、今後の検討の加速につながることを確認」「8月下旬の外務次官級の協議で、現地調査も踏まえ、9月の首脳会談に向けて今後必要となる法的枠組みの議論も含めて、プロジェクトの具体化に向けた議論を進める」−。

 筆者はこの面でのプーチン氏の譲歩は来年3月の大統領選挙後もあり得ないと考えている。恐らく何かグレーゾーンで象徴的な「共同事業」を幾つか考えて「前進」と発表されるだろう。筆者は共同経済活動の提案に関しては、日本側から新ハードルを設けたに等しいと批判してきたが、それが現実になってきている。

 昨年12月の首脳会談のもうひとつの「成果」は元島民などの自由往来の拡大だが、官民調査団が島に派遣されたとき、サハリン州知事は北海道と北方領土の「定期航路」(船、航空)を提案した。これは共同経済活動に対する積極姿勢ではなく、相当の曲球(くせだま)だ。つまり定期便は法的に「国内便」なのか「国際便」なのか、日本側の苦慮を露は楽しんでいるだろう。


続きます。
http://www.sankei.com/column/news/170728/clm1707280005-n1.html
2017.7.28 10:00