北朝鮮での観光旅行中に拘束され、今年6月に昏睡(こんすい)状態で帰国、
そのわずか6日後に死亡したアメリカ人大学生オットー・ワームビア氏(享年22歳)の問題をめぐり米朝の対立が激化しています。

ワームビア氏は昨年1月、政治スローガンの書かれた看板を盗んだ容疑で北朝鮮当局に逮捕され、1年5ヵ月も拘束されている間に意識不明になったとされています。

北朝鮮側は彼がボツリヌス菌に感染し意識不明になったと説明していますが、アメリカの医師団は「菌の痕跡はない」と反論。
脳細胞が広範囲にわたり壊え死ししていることから“拷問死”の可能性も考えられる一方、外傷などはなかったといいます。

ワームビア氏の死因が明らかになるかどうかはわかりませんが、彼が米朝対立の中で「政治利用」されたことは間違いありません。
北朝鮮にとって、無防備な旅行者を拘束することなど朝飯前。いつ、誰が狙われてもおかしくなかったのです。

米メディアの報道によれば、彼が参加した北朝鮮ツアーの主催者は、2008年にイギリス人が中国・西安(せいあん)で立ち上げたヤング・パイオニア・ツアーズ社。
北朝鮮以外にもウクライナのチェルノブイリ原発事故災害現場や独裁国家のエリトリア、国家崩壊危機にあるイエメン、イラクのクルド人自治区などへのツアーを実施し、
「お母さんが心配するような冒険を約束します」というのが宣伝文句でした。

同社が企画した過去の北朝鮮ツアーでは、スタッフも参加者も現地で相当ハメを外していたようで、酒を飲みまくって乱痴気騒ぎをするのは当たり前。
なんと、北朝鮮人民にとって最も神聖な場所ともいえる「錦繍山(クムスサン)太陽宮殿」(金日成・金正日)親子の遺体が安置されている場所)で逆立ちをしている写真がネット上にアップされたことも…。
過去の参加者は「動物園に行ってオリ越しに猛獣をからかって遊んでいるような感じだった」と、ツアーの雰囲気をふり返って証言しています。

ワームビア氏が北朝鮮で何をしていたのかはわかりませんし、それ以前の大前提として、北朝鮮側の人権無視は許されるものではありません。
ただ、少なくとも彼の参加したツアー主催者が、危険な“火遊び”を奨励するような形で客を集めていたのは紛れもない事実です。

ちなみに、同社で北朝鮮ツアーを主に仕切っていた人物は、現在ではフィリピンに拠点を移し、東南アジア各地で“買春ツアー”のようなものを堂々と主催しているようです。
旅先の人や文化を見下し、好き放題に振る舞う――こうした傾向は、欧米の白人ツアー客にしばしば見られるものです(今に限ったことではなく、昔から)。

そうした横暴を、かつて多くの国の人々は商売のために我慢してきたわけですが、それが今、各地で台頭する愛国ポピュリズムや外国人排斥という形で“逆流”してきているのかもしれません。
こうなると、“調子に乗った観光外国人”は飛んで火に入る夏の虫なのです(もちろん善良な個人が狙われる可能性もありますが)。

若者が冒険をするのは素晴らしい。ただ、特に北朝鮮のような国ではあらゆるリスクに対し、予備知識を得た上で謙虚に振る舞うこと。それを肝に銘じておくべきでしょう。

https://news.nifty.com/article/world/worldall/12176-88879/