先日、本誌1面に「町の時給」の記事を掲載した。今、韓国の現実を支配するのは政府が決定する最低時給ではなく、町の事情・状況によって決まる時給だということを、現場取材を通じて伝えた。

 例えば、ある地方のコンビニの時給は平均5700ウォン(約570円)前後だった。これは法定時給6470ウォン(約647円)を下回る。来年、法定時給が7530ウォン(約753円)に上がれば、その地方の店主の多くが「犯罪者」グループに入れられてしまうだろう。

 あるいは、店がつぶれてしまうかだ。政府は「税金で一部支援するから、法を守ろう」と言うが、現実は違う。

 社会部の中間デスクをしていた13年前も、同様の記事を載せた。その時は最低賃金も払わない店主をストレートに告発した。かなり抗議をいただいた。「ちゃんと支給すれば店がつぶれる」という抗議だった。私は店主たちの言うことを信じなかった。

 映画『明日へ』(原題『カート』)に出てくる悪質なコンビニ店のように、貧しい子どもに金を払わない悪徳店主が群れをなして抗議にやって来ると思った。「法の通りになければ店をやめるべきだ」と強く言った。

 愚かなほど世の中を白か黒かだけで見ようとする。この世の中は強者と弱者よりも弱者同士の上下関係の方がはるかに多いことを後日知った。

 今、韓国で最低賃金ももらえていない労働者は280万人いる。そして、この数は年々増えている。全体に占める割合も増え続けている。来年は313万人、16.3%に達するという。

 数字が示すシグナルは明確だ。経済の体力が変化について行けていないという警告だ。もらえない側が問題なのではない。こうした人々の半数が5人未満の事業所や店で働いている。ざっと見積もっても店主数十万人が法を犯していることになる。来年はもっと増えるだろう。

 政権が地方の労働市場を巨大な闇市場にしようとしている。犯罪者を増やす法を「悪法」と言う。悪法はこの社会の最末端にいる弱者の中の上位者(店主)をターゲットにしている。「法の通りにするか、それとも店をつぶすか」。かなりの人にとってはどうせ同じことだろう。

 あらゆる難癖をつけて「漢江の奇跡」を握りつぶす人ほど、逆説的に韓国を先進国扱いする。分配政策を押し通すには、分け合うパイの大きさを誇張するしかないからだ。

 昨年の韓国の最低時給は比較可能な経済協力開発機構(OECD)加盟32カ国中14位と中上位圏だった。こういう時、「OECD主要先進国よりも低い」と責め立てる。韓国の地位を先進7カ国(G7)並みに格上げさせようというのだ。

 もちろん、低くて当たり前だ。韓国は「主要先進国」ではないからだ。それを知っていながら、世間をだましている。

 圧巻は「脱原発」だ。韓国は製造業が中心の国だ。国内総生産(GDP)では製造業生産が29%を占める。世界銀行の集計で世界ランキング2位になっている。

 脱原発を宣言したものの、製造業の崩壊に耐え切れず、原発を再稼働させた日本は21%程度だ。脱原発をするには、まず産業構造をどのように変えるのかを青写真で示さなければならない。

 この政権は、北海油田をほしいままにして国民に牧歌的生活を送らせている北欧と韓国が同じだと思っているようだ。それとも文在寅(ムン・ジェイン)大統領がうらやむヒマラヤの敬虔(けいけん)で汚染されていない国ブータンを目指しているのかもしれない。

 だが、韓国はそもそもそういう国ではない。電気を大量消費しなければ稼働不可能な半導体・鉄鋼・ディスプレイ・化学・エネルギーなど製造業の工場が国民を食べさせている。

 今、政府が福祉を充実させるとして増税を求めている「超大手企業」もほとんどがこうした製造業に属する。これが韓国の現実なのだ。

 客観的な現実を無視し、浮き雲を追ううちに没落することを「巨大な錯覚」という。マルクスがフランス革命時に失敗した未熟な左派を言った言葉だ。

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>>2以降に続く)