2015年に世界遺産に登録された長崎県端島(はしま)に「強制動員」された朝鮮人たちを描き、注目を集めていた映画「軍艦島」が、7月26日に韓国で公開された。

〈朝鮮人には、生きては出られなかった地獄島〉

 そんな刺激的なコピーの同作は、初日97万人動員という歴代最高記録を打ち立て、公開後5日間で400万人を突破している。

 もっともこの数字には、ちょっとしたカラクリがある。

「軍艦島」は初日、全国に約2700あるスクリーンの実に7割超を“独占”して公開されたのだ。これには他の映画の上映機会を奪う行為として、韓国国内でも批判が殺到。同作の柳昇完(リュスンワン)監督さえ「観客には様々な映画を選択する権利がある。非常に申し訳ない」と謝罪したほどだ。

 肝心の内容は、強制労働の事実を隠蔽するため、日本軍が朝鮮人徴用工を炭鉱に閉じ込め、爆破しようとし、数百人の朝鮮人が脱出を試みようとする荒唐無稽なもの。監督は「事実をもとにした創作物」と“予防線”を張っているが、朝鮮人女性を遊郭に売り飛ばしたり、朝鮮人の特殊部隊員を潜入させたところに米軍が空爆を行うなど、思わず首をかしげてしまうような場面の連続だ。

 映画の評価を巡ってはインターネットで熱い論争が繰り広げられているが、興味深いのは、「これは反日映画ではない」と評する声が多いことだ。劇中で最も悪い役で登場するのは、日本人の手先となって同族の朝鮮人を虐げる「親日派の朝鮮人」だから、という理由だ。確かにこれまでの反日映画では、朝鮮人は一方的な被害者として描かれてきた。加害者としての姿が描かれるのは珍しいが、慰安婦役で出演した女優が、「日本が無条件に悪い、としてないのがよかった」と発言すると、“歴史の勉強をしてないのか”と、たちまちネットで炎上してしまった。

 主人公が親日派を断罪するときのセリフ「民族の名で君を処断する」も話題だ。日本のアニメ、セーラームーンの「月に代わってお仕置きよ!(韓国では「正義の名で君を許さない!」と訳されている)」を連想させると冷笑を買っているのだ。

“炎上ネタ”には事欠かない映画であるのは確かだ。


http://bunshun.jp/articles/-/3588
週刊文春 2017年8月10日号 2017/08/06