7月28日の日本時間深夜、北朝鮮はミサイルの発射実験を行った。今回発射されたのは大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、米国を射程に入れる能力を備えていると見られる。この発射を機に、朝鮮半島情勢が一段と混迷の色を深めている。

 最大のポイントは、北朝鮮への対応を巡る米国と中国、ロシアの利害の食い違いが一段と鮮明になっていることだ。

 トランプ大統領は、米国の専門家から地政学的な朝鮮半島の重要性、北朝鮮と中国およびロシアとの関係などに関するレクチャーを受けているはずだ。それにもかかわらず、同氏は朝鮮半島情勢について、これまで経験してきたビジネス交渉の延長線上で捉えているのかもしれない。

 圧力をかけたり好条件を示せば、相手が同氏の言うことを聞くと思っているのだろうか。それは誤りだ。安全保障問題は国の存亡にかかわる問題であり、ビジネスとは明らかに違う。それに伴う交渉は、時にビジネスに関する交渉やディール(取引)よりもはるかに複雑だ。

 当面、トランプ政権は中国に北朝鮮への圧力行使を求め続けるだろう。ただ、それで朝鮮半島の問題が解決できるわけではない。現在のように米国が北朝鮮に圧力をかけ続けると、朝鮮情勢を巡る米中露の関係は一段とこじれてしまう恐れがある。

 その中で、わが国はいかにして自国を守るか、現実的な対応を進めなければならない。

北朝鮮は中国の生命線の一部

 トランプ政権は中国に対して、北朝鮮に圧力をかけ核兵器やミサイルの開発を断念させるよう求め続けている。中国は米国の要請に配慮して水面下での交渉を進めてきた。それでも、米中の溝は縮まっていない。むしろ、両国の関係は冷え込みつつあるように見える。

 最大の問題は、トランプ大統領の「中国にとって北朝鮮がいかに重要な存在であるか」という認識が低いことかもしれない。米国が中国に圧力をかけて、北朝鮮の軍事的挑発をやめさせようとしても中国は動かないだろう。

 なぜなら、もし北朝鮮がなくなると、中国は米国からの圧力の緩衝国を失うことになるからだ。朝鮮半島で北朝鮮がないと、中国が直に米国のパワーと対峙することにつながる。それを防いでいるのが北朝鮮だ。

 朝鮮半島の38度線を挟んで自国の意向を反映した北朝鮮と、米国の陣営に属する韓国が対峙する状況は中国にとって不可欠だ。中国にとって、北朝鮮という緩衝帯は一種の生命線とも言える。

 金独裁政権が中国の意向を無視しているにもかかわらず、中国は北朝鮮に対して強い態度を取っていない。その背景には、こうした事情がある。むしろ中国はいたずらに北朝鮮を刺激したくはない。

 中国は、北朝鮮がミサイル発射実験などを繰り返しているのは「米国が北朝鮮への圧力を強化したからだ」と批判している。この考え方はロシアにも共通する。

 トランプ大統領の頭の中では、国家間の交渉はビジネスと同じであり、先手を切って相手に圧力をかければ、有利な条件を引き出すことができると思っているのかもしれない。中国に圧力をかけて、どうにかして中国を動かしたいのだろう。

 しかし、中国に圧力をかければかけるほど、米中間の関係は冷え込む可能性がある。中国としても、今秋には大事な共産党大会を控えており、米国に対して安易な譲歩はできない。米中韓の軋轢が増し、トランプ大統領がさらなる袋小路に追い込まれる可能性は高い。

甘えに徹する韓国と影響力拡大を狙うロシア

 米中の関係がこじれ始めていることに加え、相変わらず「駄々っ子」のようにふるまう韓国と、影響力の拡大を狙うロシアの動向も、北朝鮮問題の先行き不透明感を高めている。

 韓国の文政権は今でも、元々聞く耳を持たない北朝鮮との対話を重視している。ミサイル発射を受けて日米韓で制裁を検討するとの姿勢を示しつつも、韓国は融和姿勢を崩してはいない。

 この背景には、経済的な恩恵を重視して中国との関係を強化したいという文政権の狙いがあるのかもしれない。日米の視点から考えると、韓国の対北朝鮮政策はかなり甘いと映る。韓国の本音は、自国経済を支えるためにも「中国との関係は強化したい」という思惑があるように見える。

http://diamond.jp/articles/-/137835

>>2以降に続く)